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「よし、今日はこんなもんだろ」

「えっ、もう終わり?」

 オレが今日のトレーニングの終わりを告げると、かがみが訝しげにこっちを見てくる。

「昨日みたいに帰る時に立てなくなられると困るからな」

「な、何よ!? 仕方ないじゃない!?

 あんなに激しく運動したの久しぶりだったんだし………」

 かがみが文句を言うのも無理はない。あれは毎日運動をしてる人でもキツイものだ。

 本当は昨日もかがみが音を上げれば終わりにしようと思ってたんだけど、かがみが無理して全部トレーニングを消化しちまったし。

 そこらへんはかがみの負けず嫌いの性格を分かってなかった、オレのミスだけど。

「はいはい、そうだな。だから昨日より念入りにクールダウンとストレッチしとけよ」

 オレはかがみにそれだけ言うと、自分のトレーニングを始めた。





「シン」

「ん?」

 かがみが話しかけてきたのはトレーニングが全て終わり、スポーツドリンクを一口飲んだ時だった。

「……ねえ、教えてくれない? あんたの過去………」

「……聞いても楽しいもんじゃないぞ」

 軽口で返したが、自分の目がかがみを睨みつけているのは分かった。

「それは分かってるつもりよ」

「かがみ、初めてアンタに会った時言ったよな?

 興味本位で人の過去聞くなって」

 オレはさっきよりも口調を厳しくする。

「うん。でもね、どういう言葉があんたの過去のトラウマかを知らないと話とかしにくいじゃない?」

 だが、かがみはオレの様子を気にする事なく言ってくる。

 確かにオレのトラウマでかがみ達を困惑させてるのが多々にあるから、耳の痛い話だ。

「それにね…知りたいのあんたの、シンの事をもっと」

 かがみの目は口に出した言葉と一緒で真剣で迷いがなかった。



「分かった」

 先に声を出したのはオレの方だった。

「ただ、聞いて後悔しても知らないからな」

「しないわよ、絶対」

 オレの最後の念押しにもかがみは全く動じる事なく頷く。

 ……あれだけかがみに過去の事を話したいと思っていたのに、いざ話すとなると躊躇ってしまう。

 それはやっぱり話した後の反応が怖いから…ここではぐらかすや嘘の過去を話すという選択肢もあるだろう。

 だけどそこまでかがみが覚悟を決めてるのなら、オレも腹を括るしかない。

 何よりオレはかがみに隠し事をしたくないし、何より知っておいて欲しい。





 だからオレは話し始める。



 オレの生まれた世界の事。



 家族の死をきっかけに守るべき力を欲しがり、軍人になった事。



 戦いの中で守ると約束した少女との出会い、そして守れなかった事。



 自分の信じた道をかけて戦い、負けた事。



「……ある程度の事は想像してたけど………」

 オレの話を聞いてかがみは呆然と呟く。

「それ以上だったか?」

「……うん。まるでどっかの物語みたいで信じられない…でも――」

「だよな。まさか自分の隣に座ってるヤツが大量に人を殺してるなんてな」

 かがみが何か言うの遮り、オレは自嘲する。

 その時に見たオレの手は赤く染まって見えた。



「そんな…シン、わ、私そんな事―――」

「オレは人を殺してきた。何人、それこそ数え切れないくらいこの手で。

 そんなオレと平和で暖かい家庭で過ごしてきたアンタとはまるで違う」

「…………」

「オレを見る目が変わったか? ……オレが怖いか? ……オレは人殺―――」

「もう止めて! 私が悪かったから! 謝るから…謝るから…もう止めて!!!」

「!!!」

 オレの腕にしがみつきながら、悲鳴のようなかがみの声を聞いて、オレは我に返る。

 ……オレは何を言ってるんだ…こんなことを言いたかったんじゃ………

「ごめん、ごめんね…シン………」

「……………」

 泣いてるかがみに言葉を掛けることが出来なかった。いや、掛ける権利なんてものはなかった………。





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