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「きゃあああああぁぁぁぁ!!!」
オレと目が合ったかがみはスローモーションで口を動かした後、物凄い音量で悲鳴を上げた。
「な、な、な、な、何入ってきてんのよー!? 変態!! 痴漢!! パルマ怪人!! 女の敵!! KY!! 負け犬!! エロ犬ー!!!」
聞き捨てならない言葉を口から次々と出しながら、かがみは右手でカーテンを掴んで体を隠し、左手で身近にあったものを投げてくる。
「ち、ち、ちょっと待て!! オ、オレの話も聞け!!!」
オレはかがみが投げてくるものを払い落とし、あるいはかわしてかがみを説得する。
「うっさい!! バカ! バカ!! バカー!!!」
完全に冷静さを欠いてるかがみは説得に耳を貸すことなく、単純な罵声をオレに浴びせてくる。
「ちょっと待て! とりあえず待て!! だから待て!!!」
もっともオレの方も動揺のため、単純な言葉しか出てきていないが………。
「あっ!!」
かがみの短い悲鳴のような声を出したのは、いい加減投げるものが無くなってきたのか、オレが消しゴムを払い飛ばしたときだった。
見るとオレの目の前にハサミが飛んできていた。
「よっ、と」
オレは眉間に向かってくるハサミを人差し指と中指で挟んで受け止めた。
「かがみ、いくらなんでもやりすぎだろ?」
ハサミを近くにあった机に置き、少し呆れつつオレはかがみをたしなめる。
もし当たっていればオデコに絆創膏という物凄いカッコ悪いファッションで2,3日過ごすハメになっていたかもしれないんだ。
「ご、ごめん………」
「そもそも、お前は変なところでおっちょっこちょいなんだよ」
「う、うん………」
オレの説教が聞いたのか、しゅんとなるかがみ。さすがに可哀想になってきたので、説教を切り上げ、オレはかがみに優しく尋ねる。
「今回は何が悪いか分かってるな?」
「うん…って、そもそもの原因はあんたでしょうがー!!」
「あっ………」
そ、そうだった…すっかり忘れてた………。
オレはかがみのあられもない姿を………。
「わ、わ、わ、悪い!!!」
オレは自分でも分かるくらい顔全体を真っ赤にして、脱兎の勢いで会議室から出て行った。
「見たでしょ?」
「何を?」
会議室から出てきたかがみは(もちろん制服は着ている)オレを睨みつける。
ここでかがみが何を聞いてるのかさすがのオレでも分かる。そして正直に言ってしまえばオレが殺される事も分かる。
だからここでオレが選べる選択肢は『見ていない』という答えのみだ。
「顔は見たけど、それ以外は見てない!」
「ウソつけ!!!」
「本当だ、それに仮にお前のを見ても嬉しくもなんともないしな」
「そう………」
オレの答えを聞いてうなだれるかがみ。
「……そうよね…私にはあんな下着似合わないわよね………」
「そ、そんなことない!水色の下着はお前に…あっ!」
慌てて口を押さえたが、すでに遅い。
「やっぱり見たんじゃないの!!!」
「お前今のはズルイぞ!!」
「あんたがウソをつくからいけないんでしょ!?」
「ああーそうだ! そうだよ!! 見たよ!! すみませんでした!!!」
「開き直るな!!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!?」
「責任取りなさいよね!!」
「責任…どうすればいいんだ?」
「そ、そりゃ…って何言わせる気よ!!」
なぜか耳まで真っ赤にしてうろたえるかがみ。
「ハァ!? 何訳の分からないこと言ってんだ、アンタは!?」
「あ〜自分ら」
『なんですか!?』
オレとかがみの口ゲンカがヒートアップしてきたところで黒井先生が声をかけてくる。
「夫婦漫才は後でやってくれへんか?高良が寂しそうにしとるからな〜」
『うっ………』
「せ、先生! そ、そんな私は………」
黒井先生の言葉にオレとかがみは小さく呻き、みゆきはなぜか顔を赤くしてワタワタしていた。