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「ほら、オムライス」
「…………」
目の前に置かれた料理に目をぱちくりさせる私の彼氏。
「こりゃ、驚いたな」
呆然と呟く。
かなり失礼だけど、私の料理の腕前を良く知ってるからこその反応でもある
「ふふ〜ん、驚くのは食べてみてからにしなさいよね」
未だに信じられない様子で、私の彼氏はオムライスを口に運ぶ。
「……うまい………」
「まあ私が本気を出せばこんなもんよ! ……なんてね」
「ハァ?」
「実はこれつかさに教えてもらっただけなのよ」
しかもつかさの特別レシピ付き。
「なんだよ、驚いて損した
だよな、あのかがみがこんなに料理を上手く出来るわけがないもんな」
「そのオムライス下げてもいいのよ?」
「いや〜かがみさまはなんて努力家なんだ〜尊敬しちまうな、うん」
「よろしい」
懸命な判断を取った彼氏に寛大な処置を行った。
「なんだよ、まだ怒ってんのか?
確かにレシピとやり方はつかさに教えてもらったけど、かがみがこれを作った事に変わりはないだろ?」
少々考え事をしていたら、どうやら彼氏は私がショックを受けたと思ったようだ。
普段は憎まれ口ばっかり叩くくせに、こういう時はちゃんと言葉を掛けてくれる。
なら、やっぱし私は話すべきなんだろう
「その事じゃないんだけどね。
私、つかさに迷惑掛けっぱなしだと思ってね」
「そんなのいつもの事、じゃあないけど、持ちつ持たれつだろお前達は」
そんな事かという様子でオムライスを口に運ぶ彼氏。
世間的には私はしっかり者で妹のつかさのフォローをしていると見られているけど、実際には違う
確かに私はつかさの面倒を見ているが、変わりにつかさは私に色々なものをくれている。
ただそれが目に見えるものでないから、私とつかさの本当の関係を分かる人は少ない。
目の前の彼氏はその数少ない一人なのであるけど
「そうなんだけど、最近私が持たれてばっかなのよ」
人は成長するものである。
つかさは将来の為に、今まで一緒にいた親友達とは全く違う、専門学校という進路を選んだ。
知り合いが誰もいない環境というのは、つかさを大きくしていた。
私に頼るという事も少なくなったし、一人だけで行動する事も増えた。
相変わらず抜けてるところもあるんだけどね
「考えたらさ、私がつかさの面倒見てた勉強とかもう意味ないし、私がつかさにして上げれる事ってほとんどないのよね
逆につかさの得意な家事なんかは今の私に必要だしね」
「別につかさはそんな事を負担って思う人間じゃないだろ?
お前達双子なんだし、立場が変わっても別にいいんじゃないのか?」
そりゃあ、まあ、そうなんだけど………
でも、なんていうか―――
「でもさ」
私が口を開ける前に彼氏が言葉を続ける。
「それで納得できないのが、オレの彼女なんだよな」
読まれてる、完全に
そう、理屈じゃないのよ
私が納得いかないから、今の関係を
私達は双子、どっちかのバランスが悪くなるって事は絶対に駄目なのよ!
……しかしやっぱりこいつはそんな事まで分かってるのか
私が彼氏に惚れた理由なんて多すぎていちいち挙げる事が出来ないけど、私とつかさの関係を理解してくれるというのが間違いなくある。
いくら私が想いを寄せ、私の事を好きでいてくれても、つかさの事を全く分かってない奴だったら、私は恐らく付き合ってはいないだろう
そう思うと、目の前のやつは大した男なのかもしれない
滅茶苦茶なハードルの私の心を射止めたのだから