今日もあいつと話らしい話はできなかった。

 あっちが頭を下げれば、私も水を流せる準備はできてたのに………。



「ううん! 最近私は泣かされてばっかだし、たまにはあっちが痛い目を見るべきなのよ!!」

 萎えそうな自分の心を奮い立たせる。

 そして気が付く、私に向けられた視線。



「えっと、お姉ちゃん………?」

 振り返ると様子を見に来たのか、そこには瞳を大きくさせていたつかさがいた。



「お姉ちゃん、仲直りのきっかけは?」

「きっかけって言っても、あっちが無視してくるし………」

「そっかー」

 我ながら少々子供っぽいと思う発言にも、つかさは凄く考える顔をする。

 相変わらず私に似てなくて人が良い。



「じゃあ話す内容があればいいんだねー」

「いや、そういう問題じゃなくて………」

 私のツッコミが聞こえていないのか、つかさは腕を組み、首を捻りさらに考えるポーズを取る。あまりの傾き具合に倒れそうである。



「う〜ん」

「もう別にいいわよ」

 今回のケンカはそもそもあいつがちゃんと課題をやってこなかったのが悪いのだ。

あいつは今、受験生。それがあいつは全く分かっていない。

 あいつはこの世界で生きていくって決めたはずなのに

 だからこそここで甘くしてはいけない。だからこそ私から謝るわけにはいかないのだ。



「そうだ! 本、小説だよ、お姉ちゃん!」

 ぱぁっと顔を輝かせるつかさ。

 本は私とあいつで貸し借りもしている共通の話題である。

 だからといっていくらなんでもあざとすぎやしないだろうか?



 でも私の考えだけでつかさ達まで迷惑をかけるのはどうだろう

 つかさだってあいつのことを想っているんだし………、きっと私に遠慮してやりづらいだろうし………



「お姉ちゃん、なにかシンちゃんに貸せる本ってないの?」

「うーん、確かあれの新刊まだ貸してなかった気が………」

 私は立ち上がり、本棚の方へ向かう。

 何やら私の方から折れる形になっているけど、これはつかさ達のことも考えての行動である。

 断じて私があいつと早く仲直りしたいと思っての行動でないのは、今日の夜食を食べないというのを賭けてもいい



「うん、これだ!」

 だから必要以上に明るく声を出したのも、偏につかさを安心させるためのものでそれ以外の意味などないのである。





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