5
気付いたら、私は両手でシンの左手を握っていた。
シンの目が少しずつ、遠くなっていたから、まるでどこかに行ってしまうかのように。
私はそれを防ぐためにより強くシンの手を握る。
そして気が付く。シンの全体が震えてる事に。
そして気が付く。シンが泣いている事に。
といっても、シンの体が震えてるわけではないし、涙を流しているわけでもない。
ただシンの手から私の手にそれが伝わってくる。
哀しみ、それはシンが今まで見せたことのない感情。恐らく、シンの心の奥深くに眠っているもので、今日だけそれが暴れだすのだ。
だから今日のシンはいつものシンと違って―――
違う
私は心の中で自分の考えを否定する。
この哀しんでいるシンも、シンなんだ。
両親や妹を目の前で亡くし、色々な人を守れなかったシン。
そこからシンは大切な人を失うのを極端に恐れた。
この世界でもシンは大切な人が出来た。それが私達だった。
シンは私達の笑顔の為に病的とも言えるくらい行動した。
私はそれをシンの強さから来るものと思っていた。
でも、今シンの哀しみに触れて分かった。あれはシンの弱さから来たもの。
弱いから、失うのが怖いからシンは必死になっていたんた。
でも弱いからこそ、今のシンがある。優しくて、必死に他人の事考えて、
それでいて素直じゃなくて、憎まれ口を叩いて、私の大好きなシンが。
だから今私の目の前にいるいつもと違うシンもシンなんだ。
ごめんね。今まで気付いて上げられなくて。
でも、大丈夫、分かったから…あなたの哀しみが。そして私はここにいるから、ずっとあなたの側に…いるから………。