私は階段を上がってくるシンを見て、小さく息を呑む。

 それは最初に出会ったときのシンだった…いやあの時よりも目つきも鋭いし、雰囲気もずっと怖い。でもどこかに脆さがある気がする。



「えーっと、き、今日は講義が早く終わって、ひ、暇だったから………」

 私は用意していた言葉をしどろもどろで言ったのは、

何時ものように素直になれないっていうのもあったけど、どっちかというとシンの様子に戸惑ったからだった。

 そんな私をシンは睨みつけてくる。まるで親の仇を見るかのように。

 シンが私を見る目はいつも暖かくて、優しくて、楽し気で、私はそんなシンが大好きだった。

 だから今シンがその赤い瞳に冷酷な炎を宿して私を見てくるのは、私を恐怖させた。

 逃げたかった。こんなにも私を拒絶してるシンを見たくなかった。

 ……でもここで逃げたら、私はシンの彼女と名乗れないし、愛する資格もない。

「……入れよ」

 シンはドアを開けて私を中へ促した。

「……う、うん」

 私は頷くと部屋に入る。部屋は前に来たより薄暗く感じた。





「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 もうどれくらい時間が経ったのか。

 私達は部屋に入ってから一度も言葉を発していない。シンに至っては座り込んでから動いてすらいない。

 シンは元々話すほうではない、だから私達二人が沈黙になることはしばしばある。

 でもその事で私は苦痛に思ったことは一回もなかった。

 私の勝手な思い込みかもしれないが、目を見たり、何気ない仕草でシンの事は分かっていたし、

勝手に会話してる気になれて、側にいるだけで嬉しかった。

 でも今は違う。シンは明らかに外部を全て遮断していた。ずっと一点を見つめている。

 その様子を見ると一部とはいえシンの心の傷の深さを突きつけられる。

 そしてそれを目の当たりにしても私はどうすることも出来ない。

 私はシンに何もしてあげられない…シンを守って上げられない………。

 無力感だけが湧き上がってきていた。





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