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「かがみ本当に何もないのねー」
晩御飯の食器を台所に戻しに行くと、お母さんがいきなり話を振ってくる。
「何もないって?」
「あの夕方の、アスカ君と」
「だからそう言ったでしょ」
あまりのお母さんの発言に、ついついジト目で答える。
「だって、照れ隠しと思ったのよ
なのにかがみったら夕食中もいつも通りで、話題にすら出なかったし」
批判気味にそう言われてもこっちとしては困る
特に何もないのにどう会話に乗せろというのか
それ以前に何故シンの話題を家族の団らん時に出さなければならないのか
「泉ちゃんやみゆきちゃんは話題に出すじゃない」
私の表情にでも出ていたのか、くすっと笑うお母さん。
確かにつかさもいるからかこなた、みゆきの事を話題にする機会は多い。
だけどそれはこの二人が私にとっては、いつも一緒にいる友達だからだ
やっぱり親しくなると、ついついと会話に出てしまうのは当然の事
「別にシンとはそんなに親しくないし」
友達と知り合いの線引きは個人個人によって違うけど、シンを友人と言うのにはやはり抵抗がある。
友人というには何もかも知らなすぎるのだ。
「へーへー」
だけど私の答えにお母さんは何故かとても嬉しそうに、こっちを見てくる。
経験上、こんな時はろくでもないことしか起きない
「本当は、『シン』って呼んでるのね」
「なっ、あっ、違っ………!」
全く予想していない方向からの攻撃に私は絶句する。
私は確かに普段『シン』と下の名前で呼んでいる。
これは成り行き上の雪崩式にそう呼んでしまったのがきっかけなのだけど
「下の名前で呼び合うってかなり親しいんじゃないの?」
そう、同姓ならまだしも異性を下の名前で呼び合うなんて、もしも学校なら瞬く間に校内の噂の種である。
だからって私とシンがそんな関係なんて、絶対に違う! 断じて違う!
「ち、違うわよ! 私の理想は優しくて、それでもっと知的で、ハンサムで、シンなんか全然全くかけ離れた………!」
「かがみ、かがみ、居間に聞こえるわよ」
「あっ………」
しまった! 完全に乗せられてる!
「かがみが勝手に言ったんじゃないの」
恨みがましい視線を送るものの、あっさりと笑顔で避わすお母さん。
ここらへんになるとこなたなんかよりも断然上の相手。張り合うだけ損