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「え?」
あいつの予想外な言葉に、私は一言だけを声に出すのがやっとだった。
まさかのあいつからの誘い、これは、まさか
デ、デ、デ、デ、デ、デートォォォォォォォ!?
これは全く予期していなかった。いきなり次のステップに進んでるなんて………
いや、まさか、あいつは私をからかってる? それとも天然で?
動揺してる私を見たいだけ? いやいや、そんな人の心を読める様な事をあいつができるはずが
あいつに会っただけで思考にモヤがかかってるのに、この申し出のせいで私の思考回路はショートしたといっても過言ではない。
「で、で、でも………」
しかし、いくらなんでもこの誘いは早すぎる。まだ私は自分の気持ちにすら整理がついていないなのだから
「ちょっ、あ、あんた、何か勘違いしてるだろ!?」
私のおどおどした様子から、さすがのあいつも珍しく慌てる。
その言葉からあいつにも男女の機微というのは理解してるらしい
「今はもう昼だろ!? オレ腹が減ってこなたの家までもちそうにないし、あ、あんたならここらへん知ってるって思ったからだな………」
「あ、あ、あーそ、そうよねー」
あいつの真に理のかなった言葉に、私は冷静さを取り戻す。
とはいえ冷や水をぶっ掛けられたような気持ちになったのも事実。
そしてさっきまでうろたえまくってた自分を爽やかに殴りたくなったのも事実。
「…………」
「…………」
しかしお互いの真意が分かったからといって、場の雰囲気まで簡単に戻せるものでもない。
私とあいつは気恥ずかしさから、お互いに視線をさまよわせ、手を開いたり閉じたりしている。
そんな不毛な動作をしあうことしばし。
「分かったわ! 付いて来て!」
この空気をかき消す為に私は必要以上に声を大きくする。
「おう! 分かった!」
あいつの方も似た理由からか、少しだけ声を大きく、頷く。
あいつが私を誘った理由はどうあれ、あいつといられる時間が増えるチャンスが目の前にあるのだ。これを逃がすという選択肢はない
そう決めると、私はあいつが視界に入るか入らないかのぎりぎりの距離を取って歩き始めた。