26
鞄から取り出した携帯電話を開ける。
約束の時間はとっくに過ぎているが、依然相手の姿は見えない。
「こなちゃん、遅いね」
私の怒りを感じたのか、つかさが恐る恐るといった様子で話し掛けてくる。
私が視線を携帯からつかさの方に向けると、つかさは体をびくんと震わせる。
それだけで自分が今どれほどの顔をしてるか分かる。
別にこなたが遅れるのはいつものことだから、これ程までに怒ることではない。
ただ今日の私は夢見の悪さから、機嫌がすこぶる悪い。
「あっ、ほら、お姉ちゃん、こなちゃん来たよ!」
「遅っ―――」
弾かれた様に後ろを振り向いた私の言葉は途中で止まる。
少し遠くから走ってくるのはこなたの他にもう一人。
そしてそのもう一人の顔をちゃんと確認した瞬間だった。
「ごめん、ごめん」
「ほらなやっぱりかがみ怒ってるだろうが」
「なっ、なっ…………」
そう、ここはまるで反省してないこなたに突っ込みをいれるところのはずだ。
なのに、それなのに
そう、今の私は機嫌が悪いはずだ。
なのに、それなのに
「お姉ちゃん?」
つかさの心配そうな声が遠くで聞こえる。
実際にはつかさは私のすぐ隣にいるはず。
なのに、その声はほとんど聞こえない。
どくんどくん、と異常なリズム音が私の全体を駆け回って、周りの音を遮断する。
それが自分の鼓動の音と気付いたのは少ししてから、いや本当は一瞬の出来事だったのかもしれない。
それが分からなくなるくらいに、今はただ苦しかった。