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「あっ!」
「どうしたの?」
お母さんが声を上げたのは、晩御飯の買い物が終って帰路に着いている時だった。
「ごめんかがみ、買う物一つ忘れてきちゃったわ
ちょっと買いに戻るから」
「うん、じゃあそこの本屋で待ってるね」
「ごめんね、なるべく早く戻ってくるから」
お母さんは私に荷物を預けると、もと来た道を戻っていった。
せっかく出来た時間だし参考書でも見とこうかな
「……それと、ダイエット本を少し」
私は誰にも聞かれない様に小声で呟く。
どうも最近体重が気になる。ここらで逆襲を始めないと
私は二つの重大事項の為に、本屋に足を踏み入れた。
「おーす、珍しいわね」
本屋の中に入ると、見知った顔を見つける。
それも毎日学校で顔を合わせてる一人だ。
なのに珍しいといった理由は一つ、こいつが普通の本屋にいるからだった。
「あーかがみー
やっぱりここじゃ、望みのものが半分くらいしかないよー」
「あんたはほんとに………」
開口一番のこなたの愚痴にいつもの事とはいえやはり呆れてしまう。
なんでこの情熱をもっと他に回せないかと
「そうそう、シンも来てるよー」
「あっそっ」
「かがみー、リアクションが薄いよ」
「そりゃあ悪かったわね」
こなたの不満を適当にいなす。
実際にこなたが言われるまで、その人物の存在すら思い浮かびもしなかった。
私にとってはその程度のもの
しかしこなたはそれを知ってか知らずか、やたらに私にシンをアピールしてくる。
まったく本当に困る、いい迷惑だ
「ほらかがみ、テレないテレない」
「ちょっ!? こら!」
こっちの都合をものともせず、私の腕をぐいぐいと引っ張って行くこなた。
店内の為、抵抗らしい抵抗も出来ない
私はシンの元に連行される事になった。
「シーン、ほらかがみ、かがみ!」
「ああ」
シンは私の方をちらっとだけ見ると、再び立ち読みしていた雑誌に視線を戻す。
その行動はあっちも私になんの興味も持っていない事を意味する。
何度か顔を合わせてるけどこんなもの、男と女が知り合えばってのはドラマや小説の見過ぎである。
とはいえ、ああまで眼中になしという振る舞いをされたら腹も立つというのもまた事実。
「そんなの分かるの?」
私はシンを少しからかいを含んでシンに尋ねる。
シンが目を通している雑誌は、最先端の技術の紹介や論文が紹介されているかなり硬めの雑誌だ。
そんなものを理数系の大学生ならまだしも、同い年のシンが読めるとはとても思えない。
男子だしどうせ表紙のロボットにでも釣られたのだろう
「そりゃあ、この程度の理論はな」
「はい?」
予想していたのとはまったく違う答えに私は聞き間違いかと思い、シンの方をまじまじと見る。
しかしシンの様子からは冗談には見えない。恐らく本気でそう言ったんだろう。
世界の科学者達の論文をこの程度と言い切ってしまうシンは凄い天才か、それとも凄い馬鹿か
「一体どこがこの程度なのよ?」
当然といえば当然だけど、私は後者と判断した。
どうせ自分の分からない事、イコールありえない事とでも思っているんだろう。
さっきの私に対する挨拶のこともあるし、少しばかりつっこまさせてもらおうかしらね
「あーそうだな、例えばここの理論なんだけど、そもそも前提の計算式がおかしくてだな………」
しかしこれまた私の予想とは違い、シンはちゃんとした言葉で、高校生の私程度にはとうてい分からない理論を話し出した。