『学校へ行こう』(前編)
1
「シン、買い物?」
「ああ」
後ろから声を掛けてくるこなたに、本日のスーパーのチラシから目を離さずに答える。
別にこれはオレが泉家で居候をしているから行くというのじゃなくて、単純に今日オレが料理当番の日だからだ。
住ませてもらってるんだからこれくらいは毎日やると提案したのだけど、この家の住人そうじろうさんとこなたにあっさり却下され、
料理は結局3人での当番制になっていた。
オレとしては元の世界に戻る方法を調べられる時間が取れるから、有り難い話ではあるのだけど、ちょっと人が良すぎないか?
「じゃあ、わたしが付いていってあげよう」
突然の提案にオレはこなたの方を疑わしげに見る。
こなたが飯の買い出しに付き添ってくるなんて普段はない。
となると、またどうせよからぬ事を企んでる、と思うのは1ヶ月近く一緒に住んでいる経験から
この家の住人、人は良いのだけどどうにも変わっている。
「いや〜単に今回は漫画を買いに行く交通費が惜しいんだよ
どうにもこうにも今月は厳しくてさ」
こなたはたかだか漫画の本を買いに行くにも、
近くの本屋に行かずにわざわざ別の駅にある『アニメメイト』や『ゲーマーズ』とかいう奇怪なところに行っている。
どこで買っても同じと思うのだけど、こなたに言わせると違うらしい。
「厳しいんだったら、オレの分の金やろうか?」
この世界ではオレは収入源がないため、お小遣い等という子供じみたものをオレはそうじろうさんから支給されている。
とはいってもオレはこれをほとんど使っていない。使い道がないからだ
衣食住はこの家で世話してもらってるし、取り立てて金を使う趣味といえるものもない
「だーめ、そのお金はシンが遊ぶ為に使うもんなんだから」
こなたにしては珍しく語気が強くなる。
そうじろうさんにしろ、こなたにしろ2人はオレを歳相応に遊ばせたいらしい
「でもあんがと、その気持ちだけはもらっとくよ」
「あ、ああ」
いつものふぬけた顔ではなく微笑みながらお礼を言ってくるこなた。
その柔らかな表情を見るとなんだかんだいってこなたも女の子だと感じる。
もっとも本人は自覚が薄いみたいだけどな
「さあさシン、駅前までわたしを送りたまへ〜」
もうこなたの顔はいつものふざけきった顔に戻っていた。
そしてどうやらオレはこなたを後ろに、自転車をこがなくてはいけないらしい。
「まったく、お前が1番の荷物だな」
こなたの頭に乱暴に手を乗せるが、本人は嫌がる様子すら見せない、むしろオレの反応を楽しんでいるようだ。
この世界に来た直前のオレだったら間違いなく怒っていただろうけど、今はそんな気も起きない。
もう30日以上、毎日顔を合わせてるんだからそりゃ接し方も変わってくる。
それは諦めなのか、それとも慣れなのか
どっちにしたって
「ほらほら早く」
そう、どっちにしたって
「分かった、分かった」
これは良い変化とはいえないはずだ