「彼女ヒマ? どっか行かないか?」

 心の中で溜め息。

 ゲーセンでシンの両替を待ってたら声を掛けられた。

 今日で四度目、過去最高

 もちろん更新したからって、私はちっとも嬉しくない。

 そりゃ、最初の方は声掛けられた時は少し誇らしかった。

 私は他の男に声掛けられるくらいのレベルで、シンの隣りにいても恥じる事がない存在なんだ、って

 でも今はそんな気は微塵に起きない。時間の浪費にしか感じられない。

 こんなんだったら一人でシンを待ちながら、シンの事を考えてる方がはるかに有意義に感じる。



「かがみ、待たせたな」

 帰ってきたシンは向かいの男を一睨み、声を掛けられて嬉しいと思えるのはこの時くらい。

 シンが私を守ってくれるこの瞬間だけだ。

 う〜ん、我ながら中々性格悪いわね、これ

「へ〜これが君の彼氏?」

 ところが男はシンの睨みを怯まない。

 シンが本気で睨んだら大概の人は恐怖で失神するから、あくまで最低レベルの睨みで止めている、とは本人談。

「こんなチビが君みたいなのとは釣り合ってないぜ。

 それに運が悪そうだし」



 びきき



 シンの青筋を立てた音がこっちまで聞こえてきそうだ。

 シンの身長は百七十ちょっと、高校時代から伸びたとはいえやや平均より低い。

 この身長の事と、不運とか空気とかはシンに言ってならない言葉ベスト五に全てランクインしている。

「そうね〜じゃあ、あなたの素晴らしさを見せてくれるかしら〜?」

「お、おいかがみ」



 後ろでシンが私を止めようとするが、その声は小さい。

 シンなら気付いたのだろう。

 私がシン本人よりも怒っている事に。

 私のシンをバカにするとはいい度胸の一言。

 だいたいあんたにシンの良さの何が分かるのよ! あんたは大切なものを命掛けて守れるの!? 



「じゃあ、そこのエアーホッケーであなたの実力を見せてよ♪」

「OK! 分かったぜ!」

 単純。

 シンの運動神経は並どころの騒ぎじゃない。この世界では屈指といっても大げさではない。

 もう公衆の面前で、シンにボコボコにされて大恥をかかせてやる!

「お、おいかがみ」

「シン、遠慮せずにあんな奴やっちゃいなさいよ!」

 私は小声でシンに囁く。

「……いや、オレあのゲームやった事ないんだけど………」



 私の目は点になった。





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