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どすどすどす
しばらくするとかがみは音を鳴らして再び居間に戻ってきた。
きっとオレに出て行けとでも言いに来たのだろう。
いつまでも邪魔はしたくない。
かがみだったらもっといい『実在』の男が見つかるだろうから。
「いいから座れ」
立ち上がったオレにかがみは怒りの表情で命令する。
どうやら文句を言いたいらしい。
これを聞くのが、今までかがみの大切な時間を奪ったオレのせめての償いだろう。
だが、予想に反してかがみは座ったオレを素通りしてテレビの方に向かっていく。
そして旧型のビデオテープと呼ばれるものをセットする。
「なんだよ、一体?」
「黙って見なさいよ」
かがみはオレの隣りに座ると、それだけ言ってリモコンを操作した。
『ほらほら、かがみ〜笑って』
『かがみ、こっち向いて〜つかさはちゃんとしてるわよ?』
映像は何かの入学の時の様子だろうか。
まだ小さいかがみと双子の妹つかさの姿が映っていた。
つかさが笑ってカメラの方を向いてるのに対して、かがみはふてくされた顔、見ようによって泣いているともとれる顔だった。
『おねえちゃん、ほらほら』
『いやっ!』
宥めるつかさに駄々をこねるかがみ。
オレの知ってる2人とは真逆の立場。
「これね、幼稚園の入園式の時の
こんとき私ね、つかさと同じクラスじゃないってもうわめき散らしてね
つかさは私が面倒見る、ってもう笑っちゃうでしょ?」
かがみの問いにオレは答えなかった。
『きょうのうんどうかい、わたしはいちい〜!』
『わたしはころんじゃった………』
『気にしない、気にしない、かがみもだけどつかさも頑張ったよね』
『うん、つかさもがんばってた』
『あ、ありがとー! おねえちゃん!』
「それでね、あん時つかさが私に飴玉くれたのよ
これで泣き止んでって、まあ今思えば泣き止む私も単純だったなっと」
映像の風景が変わってもまだかがみはさっきの映像について話し続ける。
「かがみ、何が―――」
「そん時の飴玉の味、今でも忘れない」
こっちを見てくるかがみの瞳は本当に嬉しそうで、魅力的なもの。
オレにはもう触れる事が駄目なもの。