「シン」

 優しく手を握られる。

 その顔は今にも泣き出しそうな、オレを心配した顔。





「ハハッ。」



 短く笑う。



 彼女の気持ちを振り払い、自分を嘲る。



 いつもこの顔に励まされて、立ち上がってこれたのに今回ばかりは違った。



「オレは作られた架空の存在なんだな」

「シン、違う! 違うわよ!」

「違わないさ、そりゃお前は認めたくないよな。恋人が架空のしかも、アニメのキャラだったなんてさ。」

「シンやめて! 本当に怒るわよ………」

「怒られても困るよな、作られただけのオレに。」

 オレはかがみに自嘲の笑みを浮かべて答える。

「オレの言葉ってさ、全部決められたものだったんだな。

 お前に対する気持ちも言葉もさ。」

「っ!!」



 ばん!!!!



 ちゃぶ台をすごい勢いで叩きつけると、かがみは居間を出て行った。

 それをオレはただ見ているだけだった。





 去っていく。



 1番に大切な人が自分の側から。





 だけど当たり前だ。



 愛してると、心を通じ合わせていたと思われたものが作り物の存在だった。



 人間どころか生き物ですらない架空の存在だった。





 作り物の言葉で嬉しがったり、怒ったり、頬を赤らめたり、思い出すと惨めな気持ちになったのだろう。



 だからかがみの行動は極めて当然で当たり前。



 オレなんかの顔も見たくないだろう。



 だから追いかけようとも思わない。





 そもそもこの場合オレは泣いたらいいのか、それとも怒ればいいのか。



 それすらも分からない。



 オレは作り物の存在なんだから。



 ただ、さっきよりも心に拡がる虚無が大きくなった、ありえないけど、そんな気がした。





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