日が暮れた海岸は別の風景を見せる。

 昼間あれほど海岸を占拠していた家族連れはほぼいなくなり、残っているのはサファーや私達のようなカップルだった。



「んっ」

 私達は砂浜に腰を落ち着け軽いキスをする。

 人前で滅多にキスをしない私達、それなのに今日はキスどころかバカップルの様に、遊んで、楽しんで、笑った。

 夏は人を開放的にさせると言われているけど、案外本当の事かもしれない



「少し不思議」

「オレも」

 視線は海に向けたまま指を絡ませ、私達は会話を続ける。

 くどい様だけど、これはいつもの私達にとっては考えられない事だ。



「でも悪くなかったわよね?」

 私はシンにもたれかかりながら、尋ねる

「ああ」

 シンの私を見る瞳はとっても穏やかで涼しげ

 この瞳をされると私はシンをとっても大人と思いつつ、そんなシンに少し嫉妬してしまう

 でも今日はそんな感情すら湧かない

 頼もしく、誇らしく思える



 本当に今日はおかしな日



 でもたまにはこんな日もいい



 見栄とか照れとかを取っ払って、心に想った事を素直に言える日が



「本当はさ、ちょっと怖かったんだ

 楽しむ前に、哀しみが来るんじゃないかってな」

「うん」

 シンが言ってるのは元の世界であった少女の事、勿論私もそれについてはシンの口から聞いてるし、気負っている部分もあった。

 でもそれは無用の心配だった。



 私もシンもそれを変に意識する事無く、二人っきりの初めての海を―――





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