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「はっ、心にもない事を、笑わせよんな」
迷いなく言ったオレの返事を即座に黒井先生は鼻で笑い飛ばした。
「なっ!? オレが嘘付いてるって言うんですか!?」
「せや、最低でも信頼はしとらんやろ?」
「そんな事あるもんか!! オレはあいつを…かがみを………」
「ほな聞くが、お前はその『信頼』してる柊から、嫌いって直接言われたんか?」
「えっ? ……そんな事別に言われなくても、チョコが――」
「チョコチョコとうるさいやっちゃな〜。おのれはチョコレートマンか!?
だいたい、柊がその決まり知らんかったかもしれんやろ?」
「そ、そんな、まさか………」
「やなくても、昨日渡す事が出来んかったとか、その日にチョコが作れんかったとか理由は色々あるかもしれへんやろ?」
「そんなの推測じゃないですか!?」
「そや推測や、ウチは柊からなーんもも聞いてへんしな。……けど、お前もそやろ?」
「うっ………」
確かに、かがみはオレの事を面と向かって嫌いとは言わなかった。
「直接聞いてもおらんのに、推測だけでそんな判断してよく信頼出来るなんて言えるな〜」
「…………」
黒井先生の言葉にオレは言葉も出ない。
「お前が柊を信頼してるんやったら、柊はお前が真剣に聞いたら答えてくれる、ちゃうか?」
「でも………」
確かに聞いたら答えてくれるかもしれない。……だから怖いのだ。オレを拒絶されたらと思うと………。
「……ええか、アスカ。大事なんはお前が柊の事どう思ってるかや!! 嫌われとってもええやないか、抗ってみい!!!
このままやったら絶対自分は後悔するで!! ……大切なモンは一度離すともう戻って来ーへんねやからな」
「あっ………」
――そうだった。オレは何度もそれを経験してるじゃないか!
……なのに、オレはまた大切なのを失おうとしている。
そんな事、そんな事させるもんかぁぁ!!
「黒井先生、ありがとうございます! ……オレ…もう少し抗ってみます!!」
「……分かったんやったら説教はこれで終わりや。ほな、ケジメつけよか」
「お願いします!」
そう言うとオレは歯を食いしばった。
ドゴッ!!!
「いってぇぇぇぇ!!!」
オレの絶叫が職員室に響いた。
「なんや、これくらいで声出しおって、ガマンせぇ!!」
「普通あの場面は頬殴るでしょ!! なんで頭の上なんだよ!?」
胸を張る暴力教師にオレは頭を両手で押さえながら抗議の声を上げる。
素人とはいえ、さすがの元軍人のオレでも予想外のところから攻撃されたら、痛いものは痛い。
「アスカ、セオリーは覆すためにあるんやで♪」
「…………」
平然と言い放つ黒井先生にオレは言葉を失う。
そんなオレの様子に満足したのか黒井先生は頷くと、八重歯をのぞかせる。
「今のはウチの分や。今度からウチの授業を集中して聴くように! 後のケジメは…柊に付けてもらえ」
「ハイ。先生、ホントにありがとうございました!!」
「感謝する気があるんやったら、週末のネトゲ、ウチに付き合う事、ええな?」
「ハイ! それじゃ失礼します!」
そう言うやいなやオレはまだ痛む頭部を押さえながら、職員室を飛び出した。