「どうすんだよ?」

「ごはん」

「映画は?」

「予約券を買った上に当日券で見たいあんた?」

「いや」

 わざとらしい動作で答えるシンを追い抜き、私はつかつかと歩いていく。

 自分でも分かるくらいに機嫌は悪い

 朝からのトラブル続きでせっかくのデートが台無しだ

 これで怒るなという方が無理な話

 これは美味しいご飯を食べないとやってられない

 幸い今日行こうとしている店は峰岸推薦の店だから、きっと味も雰囲気にいいに違いない

 ここで今までの分を取り返す



 私は闘志を燃やし、大量の人を横目に歩いていく。



「かがみ」

 あっちの方は怒りが納まったのか、私の横でややのんびりとした口調で声を掛ける。

 それがまた私の機嫌を悪くさせる。

 あんたはこんなデートで満足なのか、と



「なに!?」

「食いすぎると太るぞ」



 火に油を注がれ、後ろを振り返るとからかった笑みを浮べるシン。

 その笑顔は少年のそれで、そこには普段の気難しい様子はまるで見られない。

 私だけが知ってる、シンのそんな顔。

 それが見れただけで、私の中の炎が瞬く間に鎮火されていく



 うん、いつまでも怒っててもしょうがない

 せっかくのデートだ



「言ってくれるわね?」

「そりゃあな」

 そして私とシンは笑い合う。

 きっとご飯が終わってからは楽しいデートが出来る



 そして私とシンはさっきとは違う、ゆっくりと店まで歩いていく。



「ん?」

「あれ?」

 おかしさに気付いたのは店の入口が見えた時。

 別に閉まっているわけではない、その逆、店の入口から大量の人が並んでいるのだ。



「かがみ………」

 シンの言葉に私は答えられなかった、というか答えたくなかった。

 さっきから私達の横にはずっと人がいた、そしてその人達は全く動いてなかった。



 ゆっくりと後ろを振り返る、はるか先に人がいないのが確認出来た。

 一体、どれくらい掛かるというのか?



「どうする、プラモ屋行くか?」

「絶対に行かない!!」

 私はやけくそ紛れにそう叫んだ





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