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「……何言ってんだよ………」
私の言葉からしばらくしてシンが返した言葉には怒り、悲しみ、驚き、そんな色々な負の感情が入り混じったものだった。
私も出来る事ならこんなシンの声を聞きたくなかったし、そんな泣きそうな顔を見たくはなかった。
「誤解しないでよ。私はシンの事が今でもこの世界中の誰より好きよ」
私は明るくシンに話し掛ける。例え別れる事になってもシンとの思い出は少しでも楽しい思い出にしておきたいから………。
「……じゃあなんで、そんな言葉が吐けるんだよ?」
「……楽しくないのよ」
シンの顔を見ずに私は話す。
今のシンの顔を見たら、絶対に私は泣いてしまう。
私はシンの事を裏切ってしまったから、シンの傷ついた顔を見たくはなかったから。
「……楽しくないのよ」
私はもう一度繰り返す。
今、私とシンは付き合っているが、付き合う前の方が楽しかった。
つかさの天然に笑いながらツッコミを入れて
こなたに振り回されて
みゆきにフォローしてもらって
シンと笑って
ライバル達の行動にやきもきして
シンの一挙手一投足にどぎまぎしてたあの時の方がずっと楽しかった。
それは恐らくシンの方もそうだろう。
私を好きでいてくれているが、シンにとってつかさもこなたもみゆきも大切な人だ。
きっと、みんなといたほうがシンも笑っていられるから………。
「だから、別れましょ。私達が恋人同士ってのはきっと早かったのよ」
私はなんとか笑ってシンのほうを見た。
「……だね………」
「えっ?」
それまで黙って私の方を見ていたシンが呟く。
「イヤだね!!!
なんだよ!? 初めてのデートのまだ半分も経っていないのに、そんな事言いやがって!!!
オレとアンタとはそんなもんだったのかよ!?
オレはアンタとなら、この程度じゃ壊れないって、一生一緒に歩いていけると思ってたのに! なのに!!!」
感情が爆発したのか、一気にまくし立てるシン。
……何よ、人の気も知らないで………
私だってあんたと同じ気持ちよ!
それなのに、それなのに、自分だけ言いたいこと言って、
……私は、私はあんたの笑顔が、優しい笑顔が見たいからこんな言いたくない事言ってるのよ!?
私はなんだか無性に目の前の男に腹が立ってきていた。
「何勝手な事ばかり言ってんのよ!?」