8
「ごちそうさまでした」
「……少年、バイト代を還元してくれるのは嬉しいんだが、その、なんだ………」
支払いを終えて出て行こうとするオレをマスターが止める。
「なんです?」
「いや、違ってたらすまないが…あのお嬢さんは笑顔が素晴らしいと記憶してるんだがね」
「はい。かがみの笑顔はメチャクチャ可愛いですから、きっと見とれますよ」
「おお、じゃあ次は楽しみにしてるよ」
マスターには強がりのセリフを吐いたものの、オレすらその笑顔は今日見ていない。
そしてオレの気のせいじゃない。
周りの人も思うほどに、今のオレ達は恋人同士とはとても言えないものだった。
この場にこなたやつかさ、みゆきといったオレ達をよく知ってる人達がいれば、どこがおかしいのか気付いてくれるかもしれないが、
それはない袖というヤツだし、オレとかがみの事でいつまでも皆に頼ってるわけにはいかなかった。
だけどどうしてこんな事になってしまったのか? その疑問は解けたわけじゃなかった。
オレは今この瞬間でもかがみは一番大切な人だし、愛している。
かがみだってそうなはずだ。それなのに………。
「じゃあな、少年。健闘を祈るぞ」
「はい」
オレはマスターの激励を背にドアを押した。
「お待たせ、行くか。
……どうしたんだ?」
かがみはその場に立ち止まったまま、歩き出そうとしなかった。
「かがみ?」
「……ねえシン…私達別れない?」
かがみの言葉にオレはただ固まる事しか出来なかった。