冷蔵庫からお茶を出して入れる。

 湯飲みは3つ。オレ、かがみ、つかさの分だ。

 彼氏でもない男の家に2人の女の子が上がりこむ。

 他人から見れば中々に不思議な光景だろう。

 まあ最初の方はオレもどうして親しくなるのは女ばかりなんだと首を捻ったが、今は気にならない。

 逆に久しぶりに気の許せる人に会えてホッとしている。

 かがみ、つかさ。オレに沢山の事を与えてくれた、大事な守りたい人達。

 だから今日はたくさん返さないとな

 オレは湯飲みが乗ったお盆を手に2人が座っている所に向かった。



「さて、誕生日と言えば何はなくともケーキだけど、作ってません!」

 オレの発言にかがみはジト目、つかさは目を丸くしてこっちを見る。

 オレだって2人の誕生日には自前のケーキを作って、盛大に祝って上げたかったのだが、泉家に居候している時ならまだしも、

今のオレは1人暮らしの身、2人のプレゼント以外に器材・材料一式を揃える資金等存在しないのだ。

 しかしオレだってケーキ無しで誕生日会をするほど空気が読めないヤツじゃない。



「だが安心しろ! オレのバイト先の喫茶店にケーキを頼んでおいた」

 しかも格安で、という言葉はオレの胸だけに閉まっておく。

 恐らくオレがお金が無い事を言ってしまうと、かがみは怒りながら、つかさは泣きそうになりながらオレの事を心配する。

 これは自惚れとかそんなんじゃなくて、この2人の事を知っていればすぐに想像は付く。

 この2人はとても優しい心の持ち主だ。そして何度もそれにオレは助けられてきた。

 無様な所もいっぱい見せた、別にそれは構わない、そのお陰でオレ達は今の関係が築けた。

 ただ、オレにだって見栄はある。たまには2人に格好良いところも見せておきたいのだ。



「シンちゃんそのケーキわたしが取ってくるよ」

「えっ? いや………」

 オレはつかさの提案に言葉を詰まらせる。誕生日会のケーキを本人に取りに行かせるなんてそれこそ聞いた事がない。

「そうね、行ってきたら?」

「なっ!?」

「うん! じゃあ行ってきま〜す」

 かがみの余りの発言にオレが驚いている隙に、つかさは外に出て行った。



「かがみ、なんでつかさだけを行かせたんだよ?」

 オレはつかさを行かせたのに、自分はのんびりとお茶を啜ってるかがみを睨みつける。

「別に本人が行きたいって言ったんだからいいじゃない」

 かがみはオレを見ずに突き放したように答える。

 オレがかがみと知り合った間もなかったら激怒していただろう。

 妹をパシリの様に使うなんて最低極まりない。

 だけどオレはかがみという人物をよく知ってる。

 かがみは妹であるつかさを決してそんな風に扱ったりはしない。



「かがみ、何か隠してるだろ?」

「……なんでそんな風に思うのよ?」

「お前がそういう態度を取る時は必ず隠し事をしてる時だ」



「…………。

 あー分かったわよ、言えばいいんでしょ!?」

 オレの視線に耐えられず、かがみは持っていた湯飲みを乱暴に置く。

「プレゼントよ」

「プレゼント?」

「そっ、プレゼント。つかさは前もってこの近所の店で予約してた物を、ケーキを取りに行くついでに取りにいったのよ」

 つかさの律儀さには全く頭が下がる。

 いくら姉が誕生日とはいえ、普通自分の誕生日にプレゼントを買って渡すか?

 まあそれだけつかさがかがみの事を大切に思っている証なんだろう。





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