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「なあ、レイ、本当は………」
「ああ、出来ない事はない」
全部言うまでもなく、レイはオレが何を聞きたいのか分かっていたみたいだった。
やっぱりか
心の中でオレは自分の考えが当たってた事を確信する。
レイはさっきオレを元の世界に連れ戻すのは冗談、と言った。
それは裏を返せばオレをまた元の世界に飛ばす事が出来るという事だ。
そして、今この場にはオレとレイしかいない。今なら………。
「あの力を使うには、最低でも二つ以上の死者の力が必要だ」
オレの考えを見透かしたかの様にレイがいきなり説明し始める。
「その死者もお前とある程度の繋がりがある人物でないと、お前を異世界に飛ばす事は出来ない。
そして何より、異世界に飛ばすには莫大なエネルギーがいる」
「莫大なエネルギー?」
「人が死ぬ時に発生するエネルギーだ。
あの時あそこの宙域一帯にはそのエネルギーが溜まっていたからそれが出来た。お前は運が良かった」
相変わらずレイが冗談を言ってるかどうかが分からない。
戦いに負けたんだから、運が良いなんて事はないと思うけどな。
「でも、つまりそれって………」
「そうだな、ここが世界規模的な戦場になり、お前の大切な彼女達がお前より先に―――」
「そんな事はさせない。絶対にオレがどうなってもアイツ達はオレが守る」
レイの言葉を遮ってオレは宣言する。
例え、どんな手を使っても
例え、再び血に染まろうとも
今度こそオレは大切な人達を守らなければならない。
「だったら、安心しろ。この世界ではそうそうにそんな状況は起きないだろうからな」
勿論元の世界には行きたい。
でもきっと今のオレは心底ホッとした顔をしてるんだろうな
レイの顔を見たらそれが簡単に分かった。
「しかし、あいつ等と来たら…いくらレイが美形だからって、次から次へと質問攻めかよ」
安心したと思ったら、レイに対するあの二人の態度に少々腹が立ってきた。
確かにレイは超絶美形だ。アカデミーの時でもメチャクチャモテていたし、頭もいいし、性格だってクールだけど、面倒見がいいし………。
ああ、確かにオレが勝てる要素なんてこれっぽっちもないよ!
「妬いてるのか?」
「バ、バ、バ、バカ言うな!!」
真顔で聞いてくるレイにオレは思わず、言葉をどもらせる。
別にこれは動揺しているという訳じゃないぞ、一応、念の為。
「たださあ、オレの存在を無視して会話されたら面白くもないだろ?」
これは誰だってそうだろう。ましてや俺の方がどっちにも付き合いがあるんだし。
「本当にそう思うか?」
「なんだよ、女には興味ないって言うのか?」
オレのからかいに、しかしレイは鼻で笑う。
「どんな話をしても彼女達の二言目は『シンはどうした?』、『シンはどんな顔してた?』と聞いてきていたがな」
「…………」
「それがどういう意味か、いちいち解説してやろうか?」
「いい! 分かった! オレの負けだ!!」
オレは慌てて白旗を出す。
朝に続いてこれ以上恥ずかしい思いをさせられたら、1日持たない。
「それが懸命だな」
レイはふっと笑う。
その笑いはオレが知ってるレイのものじゃなかった。
上手くは説明出来ないけど悲壮感とか重圧みたいなものから解放された笑みだった。
「どうした?」
そう尋ねてくるレイはもういつものクールな顔だった。
「なんでも。
よーし今日は目一杯遊ぶぞ!」
「ああ、よろしく頼む」
頷くレイ。
どこかが変わってても、でもやっぱりそれは懐かしい感じだった。