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「ゆきちゃーん、こっちだよ」
私が所定の場所に着くとつかささんが手招きをして下さいます。
「すみません、少し遅れました。
それで、シンさんは?」
わたしの質問につかささんは無言で指を指されます。
そこにいたのはあの方ともう一人。
確かにつかささんが動揺するのも頷けます。
金髪の綺麗な髪、遠目からでも分かる端正な顔立ち、そして立ち振る舞いは気品に溢れています。
麗人、まさにその言葉がぴったり合う方です。
「ゆきちゃん、どうしよう?」
「まだ、何も分かりません。このまま少し様子を見ましょう」
尋ねてこられるつかささんの顔には不安の色が多く出ていました。
可笑しな話なのですが、あの方が女性の方と仲良くしているのに私達は慣れています。
それは、私達が一番あの方の事を分かっているという自負が私達には大小であり、実際に私達はあの方と様々な事を経験し、乗り越えています。
それなのにつかささんのこのご様子、お二人の仲はそれ程なのでしょうか。
「行きましょう、つかささん」
私は少しだけ強く、つかささんにそう言ったのでした。
尾行を続けて少し、私もつかささんと同じ気持ちになっていました。
あの方のあんな嬉しそうな顔を私は見た事がありません。
少なくともあの方と金髪の女性の方が恋人関係、少なくともそれに順ずる関係だという事は理解出来ます。
ですが――
「おかしいですね」
「なにが?」
「つかささんはシンさんから、恋人がいるとかいう話は聞かれましたか?」
私の質問につかささんは首を横に振られます。
そうなのです。私はあの方からそんな話を聞いたことが一度もありません。
この世界での恋人のコトは
あの方に恋人がいたという事は知っています。
でもその恋人の方とは今は会えないはずなのです。
世界が違うから
あの方は私の質問にそう答えられました
あの方は私達の世界とは全く違うところから来られたのです。国的な意味ではなく、次元的な意味で。
この世界に来たのは偶然、ともあの方はおっしゃられました。
では恋人の方もその偶然というのが起きたのでしょうか?
しかも同じ国、同じ地域に飛んでくるというのはどれくらいの確率なのでしょうか?
それとも愛は偶然を越えるのでしょうか?
「えっ?」
あの方達二人を見てそんな事を考えていると、金髪の女性の方がこっちを見て笑った、気がしました。
「ゆきちゃん、あの女の人………」
どうやら気のせいではない様です。
尾行に気付かれていたという事でしょうか? いえそんな事よりもあの笑顔
あの笑顔は勝ち誇ったものというものではありませんでした。
何かこう、安心された様な………、でも何になのでしょう?
先ほどから分からない事が多すぎます。
「ゆきちゃん、また移動するみたいだよ」
「はい、こうなったら、最後まで追いかけましょう」
私は力強くつかささんに宣言します。
分からない事は、知りたい性分なのです。