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「逆にああ言われた方がジンとくるよな」
「うん、それにゆきちゃん凄く格好良かったよ」
「いえ、あれはとっさに思いついたものでして………」
黒井先生の言葉通り高校生活のHRは早く終わり、今はクラスのみんなと最後の言葉をかわしてるの。
改めて思っちゃうな
担任が黒井先生でよかった
クラスメイトがみんなでよかった
あの人が同じクラスでよかったって
あの後慌てるお姉ちゃん達をあの人は逆に、言ったんだよ
気にするなって
もちろん本当にあの人がお姉ちゃん達の言葉に怒ってるわけじゃないって、わたしなんかでもわかるよ
みんな色々なことをあの人と乗り越えてきたんだから
そんなことで仲が悪くないわけもん
でもお姉ちゃん達の気持ちもわかっちゃう
わたしも自分では何気ないと思っていた言葉で、あの人を傷つけちゃったことがなんどもあるから
そん時の後悔の気持ち、これが人を好きになる変わり。
でも止めたくない
他にたくさんのことをあの人からもらえちゃうから
あの人はお姉ちゃんやゆきちゃんのことに怒ってなんかいない
でもきっときっかけにはなったんだと思う
あの人はさっきから男子の方に声を掛けてる。
なんとなく距離を置かれてるって思っちゃうのは考えすぎだけど、そう考えちゃう
「まあシンが言ったとおり気にはしてないと思うけどね〜」
「ですが、少し軽率でした………」
『家族』、それはあの人が失ったもの
お姉ちゃんもこなちゃんもゆきちゃんも、そしてわたしもその原因を知ってる。
つらい過去、わたしなんかが想像もつかない経験。
それでもあの人は笑って、生きている。
「なんだよ、なんでお前達がいつまでもシケた顔してるんだよ?」
帰ってきたあの人がわたしとこなちゃんの頭を少し乱暴に撫でる。
わたしはみんなよりも鈍感だけど、感じる。
あの人が本当に全然全く気にしてないことに
「こんなこと言うのもなんだけどさ、オレの方がお前達を傷つけてるんだからさ」
そうやって微笑みかけると勘違いしちゃう
あの人は自分のことが好きなんじゃないかって
「オレ達のさあ、縁っていうか、……まあ、その簡単に言うと友情は壊れない、だろ?」
あの人の言葉にわたしたち三人は、困った顔を浮かべる。
でもやっぱりそんな幻想は打ち砕かれちゃう
「なんだ? 臭かったか?」
違うよ
わたしたち一人一人が、それ以上を望んじゃってるんだよ
でも言えない
だからこんな反応しか返せないんだよ