77
夜の風は気持ち良い、完全インドア派のわたしでもそう感じるくらいにこの季節の風はいいものだ。
明日のことを考えると否応なく高ぶる体を冷ましてくれる。
タッタッタッタッ
少し遠くから足音が走ってくる。
隣にいるゆーちゃんがそっちの方を向くけど、わたしは気にせず夜空を見上げている。
そういえばシンがこの世界に来た時は結構空を見上げていた。
なんでも星がよく見えるから新鮮だったそうだ。
タッタッタッタッ
なおも近づいてくる足音。
わたしもゆーちゃんも高校生だけど、残念ながら見た目は小学生に見られるほどのミニマム。
いくら家の前だからといって、危険がないわけじゃない。
とはいえわたしはこう見えても格闘技経験者。
プロの軍人ほどではないけど、殺気というか狙っている気配みたいなのはなんとなく分かる。
「大丈夫だよゆーちゃん」
「じゃないだろ」
返したのは暗闇から出てきた足音の正体。
今は空を見上げることもなくなったシンだった。
「何してんだよ?」
「シンを待ってた、と言ったら?」
「とっとと家に入れ、ゆたかを遅くに連れ出すな」
わたしの質問を完全にスルーして、シスコン全開のシン。
ちなみに現在時間は10時にもなっていない。
「わたしが中々寝付けないって言ったらお姉ちゃんが、気分転換に誘ってくれたの」
「でもなゆたか、明日は本番なんだ、多少は無理しても寝ないといけないぞ」
相変わらず融通が利かないけど、わたしとゆーちゃんで露骨に差が変わるのはどうにかならないのだろうか
まあシンが特に理由もなくデレたら、それはそれで怖いけど
「いや〜逆にどんどん興奮してきて、今ならオールでもやれそうな気がするんだよね」
「やめろ」
♪失敗だって、Good night♪
着メロが鳴り、シンとゆーちゃんが携帯を取り出す。
わたしの携帯は安定して机の上に放り投げてある。
「あっ、わたしだ。つかさ先輩から」
さすがつかさ、頑張ろう、メールか。相変わらず律儀だね〜
♪失敗だって、Good night♪
「あっ、オレも来たみたいだ」
どこかホッとしてるシン。
チア参加メンバーじゃないから、来るかちょっと不安だったっぽい。
「なあゆたか、これ………」
「うん、つかさ先輩これ一人ずつ違う内容のメールみたいだね………」
「おお〜………」
そこまで律儀かつかさ…どうやらまたまだわたしはつかさを見くびっていたようだ。
「……ゆたか、返信はしなくていいからって打っとけ、絶対にウダウダと寝れなくなるパターンだ」
シンの頭を抑えながらの提案にゆーちゃんは笑って頷く。
多分今ごろみんなゆーちゃんと同じ様な反応をしているだろう。
そしてきっと、緊張してるのは自分だけじゃないってことがわかるだろう。
そうすると安心できる、一人じゃないって分かるから
今のわたしがそうだから、そしてゆーちゃんも
「さーてシン、格ゲー一勝負してから寝ようか」
「とかいって『わたしが勝つまで寝ない』って言うんだろ?」
「じゃあやっぱり一勝負じゃん♪」
「おまっ、ああいいぜ、今日こそどっちが上かはっきりさせてやる!」
「お姉ちゃんもお兄ちゃんもほどほどにね」
いよいよ、明日、桜藤祭!