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「いいこと思いついたよ!」

「ん、言ってみな」

 つかさの言葉に私はテレビから目を逸らさず続きを促す。

 真剣さが足りないと思われるかもしれないけど、長年双子をやってきたから分かる。

 多分つかさはさっきから現実逃避中なんだということが



「注射占いってどうかな?」

「どうやってすんの?」

「え!? えっと、刺した痕で占う、かな?」

 疑問系で返されてもこっちが困る。

 そもそもつかさはすでに文化祭で別の占いをするのだから、今更変更なんてできるわけがない。

 やっぱり間違いなく現実逃避だ

 改めてつかさの方を見ると震えてる。

 いくらなんでも早すぎる



「そんなに緊張する? 前の列?」

「言わないで〜!」

 どうやらやっと現実に戻ってきたらしい。

 前日の段階でこれだと、当日本番前は目も当てられない。



「どうしよ〜お姉ちゃん、今日寝れそうにないよ〜!」

 まあいつもならつかさが寝れないって言うんなら、夜更かしに付き合ってあげるんだけど、

明日は大一番さすがに寝ないと皆の足を引っ張ることになってしまう。



「失敗したらどうしよ………」

 不安一杯という感じのつかさ。

 日頃から運動が苦手と言っているつかさだから、その不安は推して余りある。

 ここにあいつがいればつかさの頭を撫でるだけで、つかさは嬉しさで不安を吹き飛ばせるんだろうけど、

それはないものねだりというやつだ



「つかさならできるわよ」

 とはいえ本来つかさを励ますのは私の役目。

 そして私を励ますのはつかさの役目。

 最近それにあいつが入ってくるようになっただけで基本は変わってない。



「あんなに練習したんだから」

「でも………」

「誰もがつかさならやれるって思ってるわよ

 私は当然だし、あのシンも」

 ここであいつの名前を出すのはちょっとズルイ気もするけど、つかさに自信を持たせるにはあいつを出すのがちょうどいい。

 それほどまでにつかさの中であいつは重要な位置にいる。

 ……私もだけど



「シンちゃんも?」

「そうじゃなかったら、つかさをあの場所におかないわよ

 あいつの嘘はすっごい下手でしょ?」

 頷くつかさ。

 騙されやすさなら日本でも有数であると思われるつかさにまで、そう思われてるあいつ。

ただ逆をいえば、あいつのやることには嘘がないといえる。



 私達を守る

 普通に捉えれば、調子の良い、不可能な言。

 だけどあいつは大マジなのだ。本気で私やつかさやこなたやみゆき達を守る気でいるのだ。

 それを私とつかさは何度も見てきた。

 だから怒りっぽくって、口が悪くて、空気の読めないあいつを信じれる。



「だからシンは本気でつかさが踊れると思ってる

 だったら」

「うん、うん、わたし頑張る! シンちゃんの期待に答えるよ!」

 つかさは勢い勇んで立ち上がる。

 いくら慕ってる人間からそう思われてても、単純としかいえない。

 まあ私がつかさの立場になれば似たような感じになっちゃうのは、不本意だが想像できる。



「よ〜し」

「シンにメールでもするの?」

「ううん、みんなに」

「なんで?」

 ここであいつに空回り気味のメールを送るのが、流れというもんじゃないだろうか?



「きっとみんなも緊張してると思うし、お姉ちゃんがわたしにしてくれたみたいなことをすれば、みんなの緊張も解れるかなって」

「ふ〜ん」

 こういうところがつかさは凄いと思う。誰にでも優しく、暖かさを分けられる。



 つかさが送るこのメールは決して無駄なもんじゃない





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