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「分かってるよなひより、今日は絶対に早く寝ろよ」
「そ、そりゃもう………」
アスカ先輩の言葉にしどろもどろな返事のワタシ。
「…………」
「…………」
これ以上の追撃がないということは逃げれたということなんっスか………?
「ネタが閃いてるからって、下書きするなよ」
ぎくっ!
「はぅ、なんで!?」
お見通しとばかりのアスカ先輩のジト目。
そ、そんな、ワタシの知ってる『シン・アスカ』が周りの人間の事を把握しているわけがない!
「ニュータイプっスか!? 種持ちだけじゃなかったんですか!?」
「わけのわからないことを…そもそもさっき皆を見る目が異常だったからな」
「し、仕方ないっスよ………」
明日がいよいよ文化祭とあって、今までの思いを感慨深げに話す、友人・先輩達。
みなみちゃんとゆーちゃん、泉先輩とかがみ先輩、日下部先輩と峰岸先輩、その他にも組み合わせは無限大。
そんなものを見せられて妄想できないのなら、むしろ作り手として失格っス。
「取り合えず目だけで訴えてくるな………」
「だいたいなんでアスカ先輩が付いてきてるんですか!?」
そう、なぜか学校からの帰り道、皆と別れたワタシはアスカ先輩と帰っている。
アスカ先輩は別にこっち側に用事があるわけでもないはずなのに
「……そりゃあ、ひよりが心配だからな」
「えっ!?」
超真面目な口調で答えるアスカ先輩。
な、なに、この超展開!? ワタシはいつフラグを回収していたというっスか!?
「ゆたかから聞いたけど、お前転ぶ時に腕を守るために背中から落ちるんだって?
怪我でもされたら明日困るだろ」
「ですよねー」
うん、知ってた
フラグなんて現実にはないってことくらい
「それに帰りお前だけ1人だしな、何かあったら」
「明日困りますしね」
これ以上ハートがブレイクされる前に先に言ってやる。
どうだ、みたか!
「皆が心配するだろ」
「…………」
やっぱりこの人は『シン・アスカ』なんだ。
空回りするくらい全力で、空気が読めないくらいに本気で言ってくる。
言われる方は恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい気持ちになる。
中二病と言ってしまったらそうだけど、アスカ先輩の言葉には実感がこもってる。
私達がパロって口走るそれとは明らかに違う。
『シン・アスカ』の中では親しい人が死ぬのは、身近なことなのだから。
「まあ、そんなことはそうそう起きないだろうけどな」
そして肩を竦めるアスカ先輩。
それは知ってるアスカ先輩で、知らない『シン・アスカ』の姿。
どっちが本当のシン・アスカなんだろう?
「意外と心配性なんっスねー」
「ああ、こなたやかがみにはそう言われるな、もっとみゆきや峰岸みたいに優しい言い方があると思うけど」
「そういえば、なんで峰岸先輩だけ名字なんですか?」
アスカ先輩は基本、人を下の名前で呼ぶ。まあこれは明らかに環境の違い、アニメのキャラって名前で呼び合うのがデフォっスから
だからアスカ先輩が名字で呼ぶと遠く感じるっスけど、別に峰岸さんと仲悪いようには見えないし………。
「ああ、峰岸の希望だ。彼氏がいるし、名前はそいつだけに呼んでほしいんだろ」
「へー…って峰岸先輩彼氏いるんですか!?」
確かにあの佇まい、何かワタシとは違うと感じていたけど、まさかリア充だったとは………。
「あれ、知らなかったのか? 相手はみさおの兄貴らしい」
「なんとー!?」
……いかん、いかン、いカン、イカン、妄想が、妄想が〜
峰岸先輩と日下部先輩は親友同士。
親友をお兄さんに取られた日下部先輩は寂しくなって、峰岸先輩とお兄さんと共に―――
「キタッー! コレキタッー!」
「しまっ、あんた絶対に今日寝ろよ!」
分かってはいる、明日は文化祭、そしてチアダンスの本番っス
だけど
だけど
この興奮をノートに叩きつけなければ今日は寝れそうにないっス!!