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「先輩、私から提案、というよりわがままいいですか?」

「えっ、あ、ああ………」

 あの方はいえ、私を含めてその場にいたどなたも驚いた様子で、みなみさんの方をむきます。

 みなみさんは譲れないことには決して引かない子なのですが、はっきりわがままと言うのはとても珍しいです。



「私をゆたかの隣で躍らせてください!」

「みなみちゃん、何言ってるの!?」

 少し怒った声を出す小早川さん。

 みなみさんから聞いたのですが、少し前にお二人は大きな喧嘩をしてしまったようです。

 原因はみなみさんが余りにも自分を犠牲にして、小早川さんを優先させすぎたということでした。

 大切な人から過剰に保護されるのは、結果的にお互いのためではないのです。

 大切な人とはあくまでも対等な関係でいたいからです。

 みなみさんはそれに気が付いてたはず。そしてみなみさんは同じ失敗を繰り返す子ではないはずです。



「理由があるのですね」

 代表して私の質問にみなみさんは小さく頷かれます。

 そして少しだけ視線を空に浮かせます。

 ですがこれは恥ずかしさからくるものだというのは、顔が赤くなってることからわかりました。



「ゆたかは今回ダンスを一生懸命取り組んで、先輩がいるなかで皆を引っ張っていって、

ゆたかが凄く大きく見えて、それがとっても嬉しくて………

 だからそんなゆたかの隣に私はいたい。この前の長距離走ではできなかったけど、

 このダンスならそれができる機会があるのなら………」



「いいんじゃね?」



 言葉に詰まったみなみさん、それに陽気な返しをしたのは日下部さんでした。

 日下部さんは体育系の部活の方が特有にやられる爽やかな笑顔をしておられました。



「クールちゃんがしたいって言ってんだから

 それにあれだしな〜そうした方がこれもより成功すると思うゼ!」

 頷かれる日下部さん。

 少し抽象的な物言いに私とあの方は顔を見合わせます。



「こなた悪い、訳してくれ」

「そこでなぜわたしに聞くのか小一時間

 ……要するにみなみちゃん隣にゆーちゃんがいるといい顔する、ってことだよ、勿論ゆーちゃんもだけど」

 泉さんが私達にも分かるように、日下部さんの言葉に追加のフォローをしてくださりました。

 確かに泉さんと日下部さんの仰るとおりです。さすがにダンスリーダーのお二人だけあって、

自分のことで精一杯の私と違ってよく皆さんのことにも目を配られています。



「いいじゃんかウサ目〜わたしも隣で小早川のフォーローするからさー」

「日下部先輩………」

「おう、任せとけ! で小早川はそれでいいのか?」

「はい!!」

 元気よく小早川さん頷かれます。

 さっきまで少し無理して大人な立ち振る舞いをしていた小早川さんも、やっと高校一年生に戻ることができました。



「みなみちゃん、隣よろしくね!」

「こちらこそよろしく」

「一件落着だな〜」

「してないだろ!」



 机を叩かれたのはあの方でした。

 ……確かに一件落着はしていません

 ですが、このタイミングで言うのは…あの方には今更なのかもしれません





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