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 集合場所にはもうすでに皆さんが揃っておられました。

 自主参加にも関わらず、誰も休むことなく参加しておられるのは学園祭がもうすぐだからでしょうか。



「あれ、シンちゃんだ」

 つかささんの言葉にそちらに目をやると、あの方が走ってきておられます。

 注意しようと思うまもなくあの方はもう私達のところに着いておられました。



「みゆき、ちょっと来い!」

「えっ!?」

 返事を待たずにあの方は私の手を掴み、再び走り出しました。

 振り返て見ますと、皆さんが唖然とした姿が徐々に遠のいていきました。





「シンさん、少し、その痛いです」

 あの方がもの凄い力で引っ張っていかれるので、私はついつい声に出してしまいました。

 その声は呟き程度の小さなものだったのですが、あの方は立ち止まり掴んでいた手を離されます。

「ご、ごめん!」



 走って来た時のあの方の顔を見ると怒っておられると思いましたが、どうやら思い過ごしのようです。

 本当に怒っておられる時は小さな言葉では届かないはずですから。



「みゆき」

 ただ向かい合うとあの方からは強い何かが感じられます。



「オレもこれからちゃんとクラスの準備手伝うから! だからチアの練習に参加しろ!」

 興奮しておられるから、短い言葉ではありましたが、あの方は私が練習不足で悩んでいるのを知っておられるようです。

 あの方のことですから私等の事を心配しておられるのでしょう。

 そしてその事で何も言わなかった私に対して怒りとはいわないまでも、

似たようなものを覚えたから、さきほどのような顔をしたのではないでしょうか。



「すみません、ご迷惑をおかけしてしまったみたいで」

「そんなことない、オレが気付いておけばみゆきの負担は減ったのに………」

 お怒りになっていたとしたら、あの方は自身のふがいなさに対してのものなのでしょう。

 勿論私達の誰も、あの方がふがいないとは思っていません。

 今回のチアダンスはあの方が色々と心を砕いたからこそ、ここまでこれているのですから。





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