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「お前とつかさはみゆきの為に練習を抜けてたのか?」
「あっ、いや、でもさ、ほ、ほら、別にサボってたわけじゃないし」
「そういうことじゃない!」
オレの声が誰もいない廊下に響き渡る。
こなたとつかさが練習が嫌でそんなことをしたなんて思っちゃいない。
オレが怒りを覚えたのは別なことだ。
「なんで黙ってたんだよ!?」
オレにも言ってくれれば、クラスの準備もやったし3人の負担も減ったはずだし、もっと練習できたはずだ。
「いやーシンはダンスの方で頑張ってるしさー、なんか言えなかったんだよね」
「こな―――」
イマイチ事の重大さが分かっていないのか、こなたはどこか顔が緩んだままだった。
それにオレは余計に怒りが吹き上がっていた。
でも怒声を出す前にこなたが話し出した。
「だから多分、そんなシンにわたしも柄にもなくがんばろかなって思ってさ、多分つかさもそうだと思うよ」
「………思う?」
「だってわたしとつかさとみゆきさんで別にやりとりしてないから」
どこか誇らしげなこなたに対して、オレは何か嫌なものが体を駆け巡っていた。
「みゆきさんが練習できてないかなーと思って、変わってあげたら、翌日にはつかさがやるって言ってきてさ、
なんか気付いたらローテションになってて、ちょっとしたニュータイプ的な」
「それで気付いてなかったのはオレだけって事か」
「えっ!?」
みゆきは学級委員で、手際も良いし、皆一目おいている。それに断ることなんてしない人の良さ。
そんなみゆきだから出し物の準備では引っ張りだこになるのは、少し考えたら分かることだ。
でもオレは全く気付いていなかった。
こなたもつかさも気付いていたのに
オレはみゆきを助けるって誓ったのに
「え〜と、あっ、シンごめん! さっきも言ったけどシンも大変そうだったし………」
「もういい、こなたは悪くない」
こなたはみゆきの力になろうとした。みゆきが大変だって気付いて動いた。
みゆきに何もしていないオレがこなたに言うことなんて何もありはしないんだ!
「ごめん、シン」
「っ!?」
自分に対する怒りに震えるオレを、こなたは抱きしめてきた。オレが悪夢にうなされた時のように優しく、母親の様に。
「やっぱりちゃんと言えばよかったね、シンがそんなに怒るとは思ってなかったよ
でも大丈夫だよ、まだ間に合うよ」
「間に合う?」
「ひょっとしてみゆきさんが悩んでるのってこれのことじゃないかな
こっからはダンスも大変になるからわたしもつかさも練習を抜けたくないし」
オレはやっぱり鈍いんだろう。
こうやって1から10まで言ってもらわないと、理解できない。
そしてわざわざそれを全部言ってくれる人達がいる。
そんな人達には感謝してるし、その人達の力になりたい。
そしてまだ『間に合う』そう言ってくれた。
「こなた鍵の方頼む、それと」
「練習の方はかがみやみなみちゃんもいるし、行ってきなよ」
「ありがと」
オレはこなたを離すと誰もいない廊下を走り、集合場所へと向かった。