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 一回通すのに思った以上に時間が掛かってしまった。

 その原因は指導係の私にあった。

 ミスがあるごとに私が止めてつかさ先輩に言っていたからだ。

 そのミスは今思えば小さいものだった。

 それなのに私は一々つかさ先輩を止めていた。それに年下に注意されるのは心が穏やかではないはず。

 こんなのではリズムに乗れるはずがない。



「はへ〜」

 案の定つかさ先輩は一回通しただけで、クタクタになっていた。

 せっかくの個別練習なのだから、効率よくしなければいけないのに私は………。



「ごめんね、みなみちゃん」



 私を見上げてくるつかさ先輩汗でびっしょりなのにその顔は笑顔だった。

 なぜ謝られたのだろう?

 私がまた険しい顔をして怒っていると思われたのかもしれない。

 つかさ先輩とはみゆきさんやゆたかを通して話した程度だけど、とても穏やかで優しい人というのは感じていた。

 そんなつかさ先輩だから気を遣わせてしまったのかもしれない。



「わたしがもっとちゃんと踊れたらよかったんだけど………」

「……そんなことないです………」

 確かに練習を始めたばかりのつかさ先輩は、お世辞にもできているとはいえないものだった。

 だけど今日見た限りでは他の人と遜色がないくらいにまでなっていた。

 だから私も普段の全体練習では、チェックしないところまで見てしまった。

 だから本当はここはつかさ先輩を励ますところ。

 それなのに私はさっきのような言葉しか言えず………

「でもありがと〜みなみちゃん」



「えっ?」

「わたし、今まで全体の流れを覚えるのに必死で、細かいところは全然チェックしてなかったから」

「そんな、私は厳しい言葉ばっかり言ってしまって………」

「ううん全然、みなみちゃんの言ってることは正しいことばっかりだったし」

 ちょっと自分に自信のない笑い方はゆたかと被る。

 私は無意識につかさ先輩をゆたかと同じ様に接していたのかもしれない。

 といっても、ゆたかに過剰な気の遣いをしなくなったのはつい最近なのだけれども



「それにみなみちゃんは優しいって分かるから」

「……そ、そうなんですか?」

「うん、言葉よりも行動で、みなみちゃんみたいな優しい人達を知ってるから」

 視線の先にいるのはつかさ先輩の双子の姉の人、そして

「それにわたしいつも足引っ張ってばかりだから」

 だからきっとすごく練習をしているのだろう。

 つかさ先輩は運動が苦手と聞いていた。それなのにここまで踊れるようになっているのはその証明。

 でも



「それは違います」

「えっ?」

「……つかさ先輩がいるからその人達は、頑張れるんだと思います」

 こうして直接話していると分かってくる。

 この人の力になりたいという思いが

 それは私が以前に、ゆたかに押し付けていたものとは明らかに違うもの。

 つかさ先輩はすでに与えてくれている。この穏やかなものを

 だから決してつかさ先輩がその人達に一方的に頼ってる関係ではないと思う。



「ありがとうみなみちゃん」

「……いえ、こんなことしか言えなくてごめんなさい」

「ううん、やる気が出てきたよ〜練習の続きをやろうよ」

「はい」

 つかさ先輩の人懐っこい顔に、私は自分でも驚くくらいに頬の筋肉が緩んだ。





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