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「じゃあやまと、これを見てくれないか」
私は小さく頷くと、私の方を向いている液晶を覗き込む。
そこには複数の女子高生が映っている。
『じゃあいくぞ、1、2の3!』
画面の中のアスカ・シン先輩の号令の元、私と同じ女子高生達はチアダンスを始める。
私はいつの間にか来ていたストレートティのカップを掴み動画を凝視する。
「で、これの感想を言えと」
「よく分かったな」
驚いてるのは本気なのか、冗談なのか
どっちにせよ、私をわざわざ呼んだのだから、感想は本気のを求めているんだろう。
でもその前に一つ確認しておかなければならないことがある。
「これ完成じゃないですよね?」
「ああ」
頷くアスカ・シン先輩。
即答といい表情といい、私をからかう為にわざとこれを見せたのではないことは分かった。
「……じゃあ今のが感想です」
「お前なー」
「私にだって優しさはあります」
少し前にこうから陵桜学園の文化祭がもうすぐというのは聞いてたから、おそらくチアダンスはその時に披露するんだろう。
これなら同じ学校であるこうに見せなかったかも説明がつく。
だけど問題はそこじゃない、内容。
素人目にも分かる完成度の低さ、というよりチアダンスの様相すらなっていない。
こんなのに感想を言えと言われても困る。
「まだまだ単純に練習不足っては分かってる
オレが聞きたいのはそこじゃないんだ」
私の表情から察したらしく、アスカ・シン先輩が付け加える。
どうやら身内ばかりで贔屓目になっているというわけではないらしい。
「でもそれだけじゃない、何かが足りないと思うんだ」
「……あなたでも分からないのを私に見つけろと?」
「いや、気付いたことがあったらでいいんだ…ちょっと、行き詰ってさ、どうしていいのか分からないんだよ………」
「……なるほど」
私は再び動画を再生させる。
アスカ・シンに会った事は今日を含めて数回しかない。
その数回ともちょっと上から目線で空気が読めなくて、妙に自信満々で。
でも今日のその人は違った。
本当に悩んでで、ちょっと弱気で、そんなのを年下の私に見せてまでもこのチアダンスを成功させたいのだろう。
そこまでする理由は知らないし、聞かない。
ただ、一生懸命になってる人を、突き放すほど私は冷酷に生きてはいないつもりだ。