30
とある土曜日に私はとある人物に呼びつけられた。
とある人物は異性ではあるけど恋人ではない。
言うなれば…なんというのかしら?
『先輩』と表現するには学校が違うし、『友人』というほどにも付き合いがない。
そんな人相手に呼ばれて来たのは、送られてきたメールの内容が真剣だったから。
その人にはそれなりに友人がいるだろうし、なんなら私とその人の唯一の接点である『八坂こう』に相談すればいい。
それなのに私にお鉢が回ってきたということは、よほど困っているのだろう。
さすがにそれを見捨てるほど私は冷酷な人間じゃない。
「……何これ………?」
指名された待ち合わせ場所はデザートタイガーという喫茶店。
名前の通り虎の形をした建物はダサいという言葉しか思い浮かばない。店長のセンスを疑がってしまう。
からんからん♪
ドアを開けると、予想に反して中はちゃんとした感じの喫茶店だった。
場所のわりに人も入ってるし、隠れ家的な店なのかもしれない。
「お〜い〜!」
店内がそんなに広くないのでその声は辺りに響く。
店内の人の視線がこっちに一斉に浴びせられる。
声の主やこうは目立つのが好きらしいけど、あいにく私はそれが嫌いだ。
だから私は次の言葉を相手が出す前にそっちへ向かう。
どうもこの人と関わるとろくなことにならない。相性がきっと悪いんだろう。
「……お待たせしました」
私は不機嫌全快で挨拶し対面に座る。
しかし相手はそんな私の態度を見ても怯む様子を見せない。
「土曜日なのに悪かったな、やまと」
そう言ってテーブルに立て掛けてあるメニューをこっちに渡す。
余裕のある笑みがやはり気に食わない。どこか自信満々に見えて。
「で、何のようですか、先輩?」
やっぱりこの人 アスカ・シンと会うとろくなことにならない。
「ストレートティーと水羊羹、お願いします」
「了解した、その組み合わせはセンスを感じるね」
絶賛するマスターとは対照的に眉を顰めるアスカ・シン先輩だったけど、何も突っ込んではこない。
正確に言えばPCを立ち上げて何かの準備をしているから、関わっている暇がないと言ったところだろうか。
恐らく呼ばれた理由は何かを私に見せるつもりなんだろうけど………