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「やっぱりお前か、かがみの方が適任だと思う、さっきのことで分かったよ」
「それは今回の任を降りる、ということでしょうか?」
「…………」
無言は肯定の証。
ただ言葉に出さなかったのは自分でも往生際が悪いと思う。
「では、誰がその役をやるのですか?」
「えっ?」
ここにきてオレはみゆきが怒っていることをようやく知る。
「残念ながら私は委員長としてクラスの文化祭の統括をしています」
「じゃあ、かがみは?」
「かがみさんも、今回は難しいと思われます」
「なんで!?」
オレの剣幕にもまるでみゆきは全く怯む様子を見せない。
逆に視線を逸らすことなく見てくるみゆきにオレは気圧される。
「かがみさんはみなみさん一年生の方々とあまり交流がありません
そして私は日下部さん、峰岸さんと、メンバー全員と交流があるのはシンさんだけなのです」
「そんな…でもオレは………」
確かにみゆきの言うとおりだ。だけどそれがなんだっていうんだ! それを活かせることができないと意味がないんじゃないか!
目の前の『できない』が総てなんだと、思い知らされ立ちくらむ
「あなたはもうスーパーエースでもなんでもないのです!」
みゆきにしては珍しい怒声ともいえる大声に休み時間とはいえ、何人かがこっちを見ている。
でもそんなことはみゆきは一向に気にしていないようだった。
「シンさんは少し前に言われました。この世界で生きていくと
でしたら、あなたはもう私と同い年の学生の男の子です!」
「じゃあオレなんかに何ができるんだ!」
「だから
頼ってください、私でもかがみさんでもつかささんでも泉さんでも!」
オレが自分の過去を語った時にみゆきに返された言葉。
オレができなくても皆がいてくれれば、そう思うと気が楽になったし、事実何度も皆には助けられた。
でもだったら今回のことも同じじゃないのか?
オレができないからみゆきやかがみに頼んだ。
「シンさんが一言、言って下されば、私達は助力を惜しみません
ですが、シンさんは今回何もおっしゃらず」
「……勝手に空回りした」
「……はい」
みゆきが言いにくそうだったので、自分で告げる。
完全に自爆だった。その上で尻拭いをみゆきやかがみに任せようとしたんだから、みゆきが怒るのも無理はない。
今回も詰まった段階で相談していれば、皆を不安にさせることはなかったはずだ。
相談することは甘えだと思っていた。
「甘えると頼るは違うと思います」
「ああ」
「シンさんが求めてきたのなら、本当に苦しんでると理解できます。シンさんは強い方ですから」
「強いやつはこんなに弱くない」
オレがわざとらしく拗ねた態度を取ると、みゆきはようやく厳しい顔から、いつもの微笑みに戻る。
「やはりかがみさんの様には上手くできませんね」
どうやら意識的にああいう厳しい顔をしていたらしい。
確かにみゆきは優しく諭してくれる方が合っている。
だからこそ逆に今回のは効いたけど
「みゆき、もう1回だけチャンスをくれないか?」
だからこそここまでしてくれたみゆきの期待に答えなくちゃいけない
「はい」
いや、違う。答えたいんだ
そしてオレに任せてくれた皆にも
「今度は頼らせてもらう、かがみにもそう伝えといてくれないか?」
「はい!」
オレはようやく『頼る』ということができた気がする。