14
泉先輩の言葉でなんとか場は収まり、取りあえずの解散となった。
とはいえ私達一年生はどことなく不安を覚えていた。
上級生の中心であるかがみ先輩と唯一の男子で裏方を務める先輩の衝突。
「……みゆきさん」
先輩達がそれぞれの教室に帰る中、私は姉の様に親しくさせてもらっているみゆきさんを呼び止めた。
ゆたかの呼びかけで集まったチアダンスはどうなってしまうのか、それだけでも聞いておきたかった。
「ご心配なさらずに。いつもの事、とは言いすぎですがかがみさん、シンさんのお二人には結構あることなんですよ」
みゆきさんは苦笑交じりに答えたけど、現場を体験した私達にとても信じられないものだった。
確かに仲が良くても喧嘩をすることはある。私もゆたかとあわや絶交とまでなりかけたのは記憶に新しい。
だが先ほどの先輩とかがみ先輩の喧嘩は、そういった類を越えていたように私は見えた。
二人とも相手を凄い勢いで睨み付けていた。知らない人がみたら二人は仇同士と思えるくらいに
「シンお兄ちゃんのあんな顔、初めて会った時以上です………」
兄の様に慕っている先輩のあんな形相を見て、ゆたかはショックを受けていた様だ。
直接向けていないとはいえ、ゆたかを怖がらせるのは私と先輩が結んでいる約定違反。詰問すべきか、という考えが過ぎる。
「みなみさんもう少しだけ待っていただけますか?」
私の表情から考えを読み取ったのだろう、みゆきさんがやんわりと釘を刺してくる。
反論をする気はない。みゆきさんはこういう時は私に必ず説明してくれるのだから。
「先ほども言った様に御二人の中では珍しいことではありませんし、お互いの事を恨んでもおられません」
「あれだけ喧嘩したのにっスか?」
「御二人の中でそれで成立しているのです。勿論怒ってはおられるとは思いますが」
再び苦笑するみゆきさん。でもその中に親友を誇る気持ちと恋敵を羨む気持ちが混ぜて入っていた。
今ひとつ理解できない話だけど、みゆきさんはあまり心配をしてはいないようだった。
「私の方からもシンさんに言っておきます。かがみさんだけを悪役にはできませんから」
みゆきさんにそこまで言われたら、私達としても何も言うことはできないし、言う必要もない。
私が頷くのを見るとみゆきさんは教室へと入っていった。
「……二人とも納得できた?」
「まあ高良先輩がアスカ先輩とかがみ先輩を信頼してるってのは分かったし………」
さすがいつも場の中を穏やかに見ているひよりは、短いやりとりで三人の仲が分かったようだった。
後はゆたかだけど………
ゆたかが懸念を抱いたら今回の集まりは崩壊してしまう。
今更ながら気づいてしまった。先輩が今回の集まりの中においてどれだけ重要なのかを
「わたしも大丈夫だよ!」
無駄な心配というより、先よりもテンションが上がっているゆたかがそこにいた。
心配掛けない様にごまかしているというわけではないみたいだけど………。
「かがみ先輩すっごく真剣だった。だからちょっと情けないって思っちゃった、わたしが言い出したことなのに」
「……そんな、ゆたか」
「ううん、お姉ちゃんやお兄ちゃんたちに甘えてた、だから」
ゆたかはいつもそうだ。確実に一歩ずつ前に進んでいる。
私はその事に中々気づくことができなかった。だからいつまでも手を引いている気分でいた。
「わたしも自分でできることをしていかないと! ……駄目かな?」
でも今は違う。私達もみゆきさん達に負けていない!
「ワタシは無理っぽいけど、小早川さんはできそうな気が………」
「……じゃあ一緒に考えよう、ゆたか」
「うん!」
ゆたかの元気の良い返事の後、私達は教室への帰路を急いだ。