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「みなみさん、今お帰りですか?」

「……はい」

「お兄ちゃん、朝ありがとう」

「ああ、今度から気をつけろよ」

 私達は互いに言葉を交し合う。

 問題は次に交わす言葉。



「小早川さん、いつもみなみさんがお世話になっています」

「いえ、そんな、こちらこそ岩崎さんには迷惑を掛けっぱなしで」

 みゆきさんと小早川さんが言葉を交わす。

 残された組み合わせはもう一つしか残っていない

「いつもありがとうな、みなみ、ゆたかの面倒を見てくれて」

「…………」

 前までは気にならなかったのに、今はその言葉が感情を逆立てる。



 なんでそんなに兄気取りなのか、と



 これが泉先輩なら納得できる。

 従姉妹だし、長い付き合いなのだから。

 私もみゆきさんとは幼い時からの知り合いで、面倒も見てもらったし、尊敬も出来るし、本当に姉みたいな人だ。



 でも先輩は小早川さんの話では、知り合って一年も経っていないらしい。

 それに先輩は尊敬できる人とは、とても………。



「それでみゆき、さっきの件なんだけどさ 今度日本史見てくれないか?」

「はい、構いませんよ」

 いつもの様に笑顔で頷くみゆきさん、いつもよりも嬉しそうなのは私には分かる。

 好きな人の頼みだからだろう、でも



 ソノ人はみゆきさんが好意を寄せるほどの人じゃない



 みゆきさんは騙されている



「じゃあ、次の日曜、いつもの図書館でいいか?」



 そうやって何人もの女の人を誘っている、あなたは



「はい、……みなみさん? ………」

 我慢できずに私は二人の間に割って立つ。

「みなみ………?」

 ようやくソノ人は気付いたのだろう、私の怒りに



「……ここで何をしてるんですか、あなたは?」

「っ!?」

「みなみさ――えっ!?」

 私は言葉を投げ捨てると、みゆきさんの手を取り、ソノ人から遠ざかっていった





 私が守る、大切な人達を





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