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やっぱり帽子を被ってきて正解だった。
私は時計を見つつ、自分の考えが当たっていた事を認める。
もっとも当たっていたとしても何も嬉しくない。夏は好きだけど何もせずにこんな暑い中待たされているのだから。
彼女とは長い付き合いになるけど待ち合わせ時間までに来たという記憶はない。
厳密に言えば何回かはあったのだろうけど、待ちぼうけをくらってる回数の方がその何十倍もあるので覚えていないだけだ。
「さて、何分遅れてくるかしら?」
十五分遅れなら早い方、三十分遅れなら何時も通り、一時間遅れなら帰る、いつの間にかこれが私達二人の決め事になってしまった。
今日はどうなる事かしらね。
「やまとーごめんごめん!」
少し遠くで声が聞こえてくる。
相変わらず少しも悪びれない声。
今回はどんな言い訳をするのかしら?
時計を見ると四十五分遅れ、残念ながらこれでは帰えれない。
「……別にいいけどね」
私はやってきたこうに表情を読み取られないために、帽子を深く被り直した。
「帰っていい?」
私はこうが着くなりそんな言葉を呟く。
「やっ、ちょっと待って! やまと!」
私の様子から本気であるという事が分かったこうが、私の服を掴む。
「遅刻の理由は彼氏とイチャイチャしてたから、かしら?」
「違う、違う! 誤解! それ誤解!」
こうが手を左右に振る。
こうの横には見知らぬ男子が立っていた。
彼氏といたから私との約束を遅れた、所詮愛の前では友情なんてのは儚いものという事かしらね
「そうね、そういう事にしておくわ」
「ウソだ! その顔は全然信用してない顔だー!」
「そう?」
「シンちゃーん、君からもなんとか言ってよー」
「なんでオレが…って何ドサクサに『ちゃん』付けしてるんだよ、アンタは!?」
「まーまー硬い事言いっこなし、なし」
「全然硬くないだろうが!!」
「……本当に帰るわよ」
痴話喧嘩を始めた二人に私は冷めた目線を送った。