「ざっとこんなもんよ!」

 バトルに勝利すると彼女はやや大きめにふくらんでいる胸を反らす。

「いばるほどのもんじゃないだろ」

 実際相手は大した腕じゃなかった、オレでも楽勝クラスの相手だ。

「まっ、そうなんだけどね」

 彼女は軽く舌を出す。

 その行動にオレはつられて声もなく笑う。

 初対面の相手にオレがここまで打ち解けたのは初めてといって良いかもしれない。

 オレもユル〜クなった…違うな。

 オレは自分の考えを即座に否定する。

 恐らく打ち解けれたのは彼女の人柄によるものだろう。

 不思議と相手のペースにつられてしまう、だけどそれが不快じゃない。



 なんとなく似てるな



 この世界で初めて会った少女の顔が浮かび上がる。



「おい、姉ちゃんちょっと調子に乗ってんじゃねぇよ!」

 しかしオレの穏やかな時間はガラの悪い声によって一瞬でかき消された。



 相手はさっき彼女に負けた男だった。

 見た目は大人なのに大人気ないヤツだな。

「あ〜あんまり、うるさくすると他のお客さんに迷惑ですよ、穏便に穏便に」

 彼女が笑顔で宥めるが、恐らく無駄だろう。

 こういう頭に血が上った場合は何を言ってもダメだ…経験者が言うんだから間違いない。

 ……どっちの方のかは聞かないでくれ。



「何をコラ! ヘラヘラしやがって!!」

 ほらな

 

「そこらへんにしとこうぜ、つまらない事でケガしたくないだろ?」

 オレは口調を穏やかに男を説得する。彼女に向って放たれた拳を手で受け止めながら。

 少しでも喧嘩をした事があるなら分かるはずだ、拳を受け止める事の出来る相手との技量の差を。



「ち、ちぃぃぃぃぃぃ、こ、これくらいで勘弁してやる!!」

 男は捨てゼリフを声を裏返しながら吐くと走って行ってしまった。

 凄むのかビビルのかはっきりしろよ………

 しかし女の子に手を出すとは…やっぱり殴っておいた方がいいか?



「すごっ! 君やるじゃん! あのまま止めてくれなかったら、どうなっていたか………」

 オレが追撃戦をしようかどうか考えてる時に彼女がお礼を言ってくる。

「いや、別に――」



「兄ちゃん、やるじゃねえかー!」

「仕方ねえ、今日はてめえがヒーローだ!」



 オレが言葉を返すよりも早く、あっちこっちで男の人達がオレに賛辞の言葉を掛けてくる。

 訳が分からないオレに彼女は肩を竦ませて説明する。

「君が止めなかったら、多分あの人フルボッコ」

「ああ〜そうなんだ〜」

 オレは目を点にしながら棒読み声を上げる。

 どうやらここは彼女のフィールドらしい。





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