12
さっき彼の目は真剣だった。
迷いがなかったし、誇りに満ち溢れていた。
きっと彼が言う大切な人達の存在がその目をさせたんだろう。
という事は彼にもいるのだ、何事にも代えれない人が。
「なんですか? 人の顔をじろじろと」
だが今の彼は真剣というより、私を見て何かを考えてるかのようだった。
それは答えが分かっているのに別の答えを探している、そういう顔だった。
「いや、あのさ………」
彼は曖昧な返事をしてジュースを一口飲む。
会った時に感じた敵対心はもう感じない。
「オレとお前が似てるなっと思ってさ」
思考停止
何? 私と誰が似てる? 何を言ってるのかしら、目の前の人は
「全く似てないわ」
「似てるんだよ、残念ながら」
「似てない」
「似てる」
「似てない」
「似てる」
「似てない!」
「じゃあもうそれでいい」
彼が手を上げたのは私の意見を認めたというものではなく、この不毛な言い争いを止めるためのものだった。
「これからどこ行くんだ?」
話題変換とばかりに彼が尋ねてくる。
最低でも私は初対面の相手にこんなに馴れ馴れしくは話さない、それだけでも違う。
「カラオケ」
「お前歌うのか?」
「悪い」
「いや意外」
心底驚いた様子の彼。
きっと私の様子からだと想像が付かないのだろう。
それも当然、私と彼は今日会ったばかりなのだから
だから私の事を知らない