「腹減った………」

 やっぱり昼食が少なかったのが原因で、オレの腹はさっきから泣きっぱなしだった。

 こんなに腹が減ったのはサバイバル授業の時以来。

 そこまで思って、今オレがそんな経験を必要としない世界にいることを思い出す。



「平和だな」

 誕生日を祝われる、それこそ何年ぶりのことだろう。

 もうそんなもの2度とないと思っていたのに

 もうそんなものは必要ないと思っていたのに



 グゥゥゥゥ



 研ぎ澄まされた空気は腹の音によって、霧散していく。

「はっ」



 今オレは笑ったのか?



 少し前ならこんな自分を激しく罵ったはずなのに

 どうなっちまったんだオレは?

 この世界の、あいつ達のせい?



『ちょっとシン、来客ー、わたしは今準備で出られないからー』

 上の階から聞こえるこなたの声。

 なんとも身勝手な注文だな、愚痴りながらも立ち上がるオレ。

 その時にはオレの疑問はどこかに行っていた。





「よう」

 ドアを開けるとさっき別れたかがみがさっきの格好で、肩で息をしていた。

「こなたか、ちょっと待ってろ」

「違うわよ!」

 訪問の意味が分からずかがみの方を見ると、手に持っていた小さな袋を突きだしてきた。

「携帯ガード、その他!」

「ハァ!?」

 袋の中を見ると確かに言われた通り、液晶保護やストラップといった携帯電話のオプションパーツが入っていた。

 とはいえかがみがこれを渡してくる意味が全然分からない。



「あんたね、携帯を雑に扱い過ぎよ! あんなんだったらすぐに壊れるわよ!

 それにこんなご時世なんだから、メールとか見られないようにしなさいよ!」

「えーと、なんだよ………」

 さすがに返す言葉が思い浮かばない。

 こいつは何をしに来たんだ?

 まさか本当にオレの携帯電話の使い方を注意しに来たのか?

「た、誕生日なんでしょ!? わ、わたしからの、ぷ、プレゼント代わりよ!」

「それだけか?」

「あ、当たり前でしょ!? そ、それ以外でこんな時間にあんたになんの様があるってのよ!?」

 オレは瞬きを激しく行いつつ、改めてかがみを見る。

 誕生日プレゼント? オレのを? わざわざ?



「クックク」

「な、何よ!?」

「物好きだな、わざわざこんなを渡すのに」

「い、いいでしょ! いらないんだったら返しなさいよ!」

「やだね」

「はっ!?」

 今度はかがみが不思議そうにオレを見る番だった。

 絶食を強要された不満はもう無くなっていた。

 我慢を強いられた分の変わりは貰えたから



「もうもらったからな、これはオレの物だ」

 そう言ってかがみに見せつけるように、液晶保護をこの世界でのオレの携帯に貼り付ける。

 そんな様子にかがみは今度は呆然としている。

 これで自分の間抜けな顔を見られた仕返しにはなった。



「な、何よ、まぎらわしいわね!」

「いいだろ。プレゼントはちゃんともらったからな」

「……ううっ〜」

「ありがとな、かがみ」

 言うといきなりかがみは首を下げ、目線を隠し、体を震わせる。

 お礼が足りなかったから怒らせたか? そう言えばかがみの首や耳が赤くなってるし………。



「かがみ―――」

「じ、じゃあ、用件はそれだけだから! ほんとに! うん!」

 止める間もなく、亜光速ともいえるスピードで駆けていくかがみ。

 あの様子から怒ってはいないだろうな、多分。

 でも明日辺りもう少しだけちゃんとお礼を言うか。

 なんたって誕生日プレゼントなんて、ものをもらったんだからな。



 オレはさっきまでと少し変わった携帯電話を見る。



 その瞬間に携帯の画面が光った。





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