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「違います、これでは堅すぎます」
もう何度目かになる文面を消し、私は携帯電話を机に置きます。
せめてあの方にお祝いのお言葉を、と思ったのですが、それだけでももう数時間。
失礼の無いよう、でも砕けすぎないよう、友人の様に、でもただの友人ではないように。
そんな全ての条件を満たす文面を、打つのは想像以上に難しいです。
カーテンを少しだけ開けると、空はもう黒色に染まり、街頭の光が辺りを照らしています。
このままだと、日付が変わってしまいます。
「一体、どうすれば………?」
本棚にある知識をくれた本達も今度ばかりは、役に立ちそうにありません。
自分で考えるしかないのです。
ですが考えれば考えるほど、脱線していきあの方の姿だけが浮かんできます。
そして首を振って追い払い、これの繰り返しです。
「ふう」
眼鏡を外し携帯電話の隣に置きます。
そもそも私はあの方に何を伝えたいのでしょうか?
あの方の気を引くため?
私の想いを伝えるため?
いつもはそうです。
ですが今回は少し違う気がするのです。
九月一日というあの方の誕生日に泉さんの御家族、そして恐らくかがみさんもお祝いされることでしょう。
いつもどこか寂しそうなあの方。
人と壁を作ってるあの方。
御家族を亡くされ、見知らぬ国に来たあの方は孤独です。
ですが、ちゃんといます。
周りにはあの方を想っている人が
だから伝えたいのは
あなたはお一人ではありません
それだけを伝えたい
私は眼鏡を再び付けて、携帯を手にします。
今度は迷い無く
『お誕生日おめでとうございます。
また明日学校でお会いできることを楽しみにしています。』
〜これ以上〜♪
返事はすぐに来ました。
どうやらお手元に携帯電話があられるようです。
私はメールを開けると、笑みをこぼしました。
『ありがとな。また明日』
短い文面です。
でも伝わったと思います。
よいお誕生日を
私はそっと携帯電話を机に置きました。
〜 f i n 〜