7
――――か が み。
耳元でささやくようにそう呼ばれた。
ふ、っと吐息が耳にかかる。
何かが肩から首へと突き抜けて行く。
「や……っんぅ」
それはあまりに唐突だった。
みぞおちから心臓へと、劇薬のような刺激物が駆け上がっていく衝動。
少し遅れて紅く染まる耳。
――――あ、ヤバイ。
これはヤバイ。
あせるな、私。
取り繕え。どんな嘘でも良い。
いつもの私を偽装しろ。
いや、そんなんじゃぬるい。
擬態するんだ。
大丈夫。
こう見えて、そういうの得意なんだから。
ピッ
♥102
「おおっ、100超えた」
――――ぎくり。
背筋に冷たいものが走る。
これは、まずい。
擬態した“私”の殻が、がらがらと音を立てて瓦解していく。
心が丸裸にされていく。
やだよぅ。
恥ずかしい……。
恥ずかしいよぅ……。
「かがみの髪っていいにおいするのな」
彼の指に掬われた私の髪が、さらりと落ちて行く。
ピッ
♥134
やめてよぅ……っ。
避けていた答えを突きつけれちゃう、からぁ……。
「かがみ、お前ってまつ毛長い、な」
ちょ、顔、近いっ。
シン、顔、近いよぅ……っ。
もう死んじゃう。
恥ずかしくて死んじゃうよ……?
ピッ
♥162
「っ!………もぅやめてよぅ………っ!」
気づいた時、私は両肩を大きく上下させ、大粒の涙をこぼしていた。
まるで、かんしゃくを起こした子供のように。