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「ホントはこなたにでも頼んで渡しといてもらおうと思ったんだけどな」
急にバイトが休みになったお陰で本人に手渡せて良かったよ。
彼はニルギリ茶を喉に流し込みながら、にか、っと笑う。
――――知ってたんだ。
私の、私の、誕生日。
言わずにいたのに。
……言えないまま、いたのに。
どこで誰から聞いたのかは解らない。
そのいきさつも勿論知らない。
でも、知っていた。
そして、覚えててくれた。
わざわざ、こうしてプレゼントを用意してくれた。
―――どうしよう?
―――嬉しいよ?
嬉しくて嬉しくて、言葉にならないよ?
「開けていい?」
満面の笑みで私はそう訊ねる。
家に帰るまでなんて待ちきれないもの。
「どうぞどうぞ」
両の掌を小箱に向けて、まるで執事のようにかしこまるシン。
なにそれ、おかしいっ。上機嫌のまま、そう笑って私は包装紙を丁寧に開けていく。
そして綺麗な化粧箱の蓋を開ける。
「うわぁっ↑↑↑!!」
―――わ、時計、だ。
黒いデジタル式の時計かな?
女の子ぽくはないけど、シンの趣味ならそれはそれで嬉しいかも。
あれ、でもなんだろ、これ。
何か黒い樹脂製のバンドが同梱されてる。
なんだこれ。なんだこれ。
あ、胸に巻くバンドだなこれ。
時計?じゃないなこれ?
胸に巻くバンド?センサーぽい?
ああ、わかった!!
メーカーロゴでぴん、ときた!!
時 計 じ ゃ な く て 、 心 拍 計 だ こ れ ッ !?
「…………うわぁ↓↓↓」
魂が砕ける音がした。もうホントにずべべべと。
「あれ?お前欲しがってただろ、それ」
あー、確かに言った。
言った言った。
5月のGW辺りに言った。覚えてる。
“心拍計で計測しながらジョギングして、科学的考察の元に痩せたいわー”とかなんとか。
誕生日を覚えてたのもだけど、そんな事を覚えてたって事にも驚愕したわ。
事さらに言えば、それを女の子の誕生日プレゼントにチョイスするセンスにも驚愕するわ。
一瞬、乙女な心地で背景に花背負った自分が恨めしい。あぁ恨めしい。恨めしい。
「そう言うなって。これ結構高いし実用的な機能ついてんだぞ?」
まぁ、それは解ってる。
家電屋さんの白物コーナーで買えそうな適当なヤツじゃなくて、ポラールのミドルグレードだもん。
専門店じゃないと買えないヤツだもん。
実際私も買おうとして値段見て諦めたヤツだもん。
だから表面上拗ねては見せるけど、内心結構喜んでたりするんだもん。