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少女がテーブルの上に、何枚ものパンフレットを広げる。
広げると言っても丁寧に置いていくのが少女の性格を物語っている。
「あら、何してるの?」
「はい、受験する学校を決めようかと、そろそろ本格的に決めないといけませんし」
先生からの信頼も厚い少女が、受験先を決めかねているのには訳がある。
それは選択肢が無数にあるからだ。
少女の学力、日頃の態度、そこから選べる学校はどこでも、といっても過言ではなかった。
しかし幸運にも少女が住んでいるのは、この国の首都に当たる場所、距離が近くて行きたくなるような学校が何校もあった。
「ふんふん、へ〜最近の高校は色んなことやってるのね〜」
「そうなんです、だからどこも魅力的で」
完全にショッピング状態の母親の相手を、律儀にしつつ少女は一校一校吟味していく。
どこも何かしらの素晴らしいところはあるのだが、少女の心の中に訴えてくるものは以前としてなかった。
「あらー! 懐かしいわね」
「どうしたんですか?」
母親が嬉しそうに見せてくるのは、隣の県にあるギリギリ通学範囲のところにある孝行だった。
「ここね、私の母校なのよ、懐かしいわ〜」
「そうなんですか」
母親の学生時代の話は何度か聞いたことがあったけど、名前までは知らなかった。
まさかこんな形で知ることになるとは思いもよらなかった。
「この校舎、綺麗になってるけど形は全然変わってないわ〜」
もう娘をそっちのけで思い出に浸っている母親。
少女の記憶の中では、母親が高校時代を話す時はいつも以上に楽しそうだった。
それほどまでに母親の中では高校時代は輝いていたのだろう。
「お母さんは高校は楽しかったのですか?」
「そりゃあもう! だから勉強もいいけど、私はそういう思い出を作ってほしいかな」
母親の言葉を聞いて少女の中の何かが動く。
少女は勉強が好きなのではない、知るということがとても好きなのだ。
母親が何年も前のことを楽しそうに話す。
それはきっと素晴らしいことをこの学校で体験したのだろう。
だったら自分も
「お母さん」
「なーに?」
「私、ここを受けてみたいです」
「あらあら、ほんとー!」
そんな体験をこの高校でなら、何年も覚えているような思い出をこの高校なら
頭ではない、少女の中の何かが確信していた
「はい、この陵桜学園を」