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「ねえせんそうって起こると思う?」
「さあ」
まだ年端のいかない妹の質問に少年は興味なく答えた。
少年の現在の興味は、もっぽら手元にある最近買ってもらったたばかりのゲームだった。
「もうおにいちゃん!」
しかし少女の方は当然それが面白くなかった。
兄が自分の質問に適当に答えたのが、ではない、自分に構ってくれないことに対してだ。
そして少女はいつもの通りに、無理矢理にでも兄の興味を自分へと向けさせる。
「おい、ちょっ! やめろ!」
少年が持っているゲーム機の画面に少女の小さな手が映る。
買ったばかりのゲームの上に画面がほとんど見えない状態。
こうなれば結果は分かりきっている。少年はスーパーエースでもなんでもないのだから。
「ああ………」
「せんそうって起こると思う?」
がっくりとうなだれる少年に、少女が同じ質問を満面の笑みで聞いてくる。
それでも少年が怒ることもなく、肩を竦めるのみなのは妹を可愛がっているからにほかならない。
「さあ」
「もう、おにいちゃん!」
「だって分からないだろ」
戦争、それは少年にとっては遠い場所でのことだった。
確かに連日メディアでは、地球と宇宙の戦いを伝えているし、
クラスメートでそういうのに詳しい奴らは、全面戦争、どちらかが滅びるまで戦いは続く、
なんてのを興奮しながら話してるけど、少年はそこまでは思えなかった。
そんな簡単に人類の生存が掛かった戦いなんてものが起きるものか、とても信じられなかった。
なぜなら少年が暮らしている国では今、戦争が起きていないのだから。
「でもこの国は戦争に参加しないからな、大丈夫なんじゃないか」
この国の理念『他国の戦争に介入せず』
詳しいところまでは少年は分からないが、両親からそれは戦争をしないということだということを聞いていた。
さらにこの国の代表者はその理念を忠実に守る意志を持っている、だから信頼できる。少年はそう両親に聞かされていた。
戦争をやらないに越したことはないくらいには、子供の少年でも分かることだった。
その上で大人である両親がこの国にいるのを決めたのだから、子供の自分達はそれに従うだけだった。
「でもさ、MSってのには1回くらい乗ってみたいよな」
「え〜!? あぶないよー」
「いいだろ、カッコイイって」
そんなやりとりをしている間にもつけぱっなしのテレビは、次のニュースである『宇宙の歌姫の失踪』を告げていた。
理由は、政治家の父親の政争に巻き込まれたといったものから、
婚約者との喧嘩、新たな恋人と逃避行といったゴシップ的なものを挙げていた。
やっぱりここは平和だと少年は思う。何も変わらず少々退屈な日常が繰り返されている。
ウー! ウー! ウー!
しかしそんな怠惰な気持ちをけたたましいサイレンが吹き飛ばしていく。
その音は兄妹が緊張するのには充分すぎるくらい非日常なものだった。
「2人とも早く準備をしなさい!」
両親が慌てた様子でリビングに入ってきた。
その格好は取り合えず的なものが強い。
「何かあったの?」
「この国に攻めてきたらしい、宇宙行きのシャトルが港から出るからそこに行くぞ」
「えっ!?」
父の言葉に呆然とする少年。
それは少年が知っている日常ではなかった。
だが、ついさっきまでくだらないニュースを流していたものは、避難を呼びかけるものへと変わっていた。
「……おにいちゃん………」
少年を現実へと引き戻したのは、妹が不安一杯に手を握ってきたからだった。
自分がしっかりしないといけない。自分が妹を守るんだ。
少年は手を握り少女に無理に作った笑いを向ける。心に強い決意を持って
「うわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
怒りを覚え、絶望を知る少年
笑って、小さな希望をもっている少女達
一人と四人が境遇と次元を超えて結びつくのは
まだ先のことだった
〜 end and
continue 〜