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「友達か?」
オレの質問にビクンと体を震わせるあきら。
恐らく怒られるとでも思ったのだろう。
「全然今と違うな、さっきの方が素か?」
「……あの〜先生、このことはご内密に………」
「分かってるって、というかわざわざタレ込んだりしないって」
まあアイドルってのはキャラ付けが必要らしいからな。例えば天然を装うとか。
それよりもさっきのあきらの方が年相応の顔をしてたんで、オレ的にはそっちの方がいいと思うんだけどな………
「仲良いんだな」
「全然っ! 全く! これぽっちも!!」
オレの言葉にあきらは力一杯否定をする。どうやら1度素が出たら中々引っ込めれないらしい。
「あいつらときたら、わたしをアイドルというよりヨゴレ芸人みたいな扱いするし、
CD出しても売り上げに貢献するどころかわたしからタダで手に入れようとするし、この前なんか大人気のあの俳優の………」
何故か言葉の途中で固まるあきら、そして少しだけ後ろを向いて、再び前を向いた時はテレビの顔になっていた。
「あっははは! やだな〜わたしったら何しゃべってんだろ〜シン『先生』忘れてくださ〜い」
「……でも嬉しいだろ、自分の肩書きとか分かって普通に接してくれるヤツって」
「…………」
「……まあ」
恥ずかしいのだろう、あきらは聞き取れないくらいの声でそう囁く。
いくらそこそこの知名度とはいえアイドル。周りの人はきっと奇異な目であきらを見てくるだろう。
だからこそこの子はこんな年で仮面を被っている。それがあのアイドルとしての仮面。
でも心を閉ざしたままだと限界がある。ちゃんと向き合ってくれる人が必要なんだ、それがこの年だと当たり前。
そこまで考えて気付いた。オレもこのあきらという子を1人の少女としてでなく、『アイドル』という肩書きで見ていた事を。
情けないな、オレ自身が異世界からきた事を知ってて、それでもオレの事を分かって付き合ってくれる人達に助けられたってのに………
「……ごめん、あきら。オレもキミの事を肩書きで囚われてたみたいだ」
「……そ、そんな〜いいですよ、別に。慣れてますから〜」
きっとオレはこの子からみたら、嫌なヤツに見えるんだろうな。
別に悪意には慣れているし、気にしていない。
ただ未だに自分の価値観だけを全てと思ってる、そんな変わっていない自分に腹が立つ。
「ほ、本当にいいですって〜! お互い隠し事があるのは大変ですよね〜」
「えっ?」
「それが素なんですよね、『先生』の? わたしも第一印象に囚われてたみたい」
あきらはそう言うと大げさに肩を竦める。
どうやらオレはこの『アイドル』を見くびっていたらしい。伊達にこの歳で大人に囲まれている訳じゃないんだな。
「あきらはきっとスーパーアイドルになれるな」
「ありがとうございます、でももう残念ながらスーパーアイドルになってますから☆」
「スーパーアイドルってのは夏はこんなに暇なのか?」
「それを言うなっー!!」
オレの軽口に手をバタバタさせるあきら。素の方を出しても売れそうな気がするのはオレの気のせいだろうか?
「ほらほら、勉強続けるぞ」
「はいは〜い」
まだふくれっ面をしてるあきらをオレは机に促す。
そしてあきらは椅子に座るとこっちを振り返る。
「シン先生にもいるんですか? そういう友達?」
期待を帯びた目、自分と同じ境遇の人を見つけると奇妙な感覚に囚われる。
同じ立場だと共感する部分と、自分の方が凄い境遇だと思う優越感。そしてそれはオレも例外じゃない。
「ああ、いるぞ」
オレは自慢気にあきらに答える。オレの大切な人達は凄いやつらばっかりだから。