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そして予想通りというか、なんというか勉強はもの凄くつまらなかった。
いやいつもつまんないんだけど…それにも増してつまらない。
「せんせ〜い、ここ分かりませ〜ん」
「ここか? ここはだな、さっき教えた公式を………」
シン『先生』は別に分からないところを聞いても、叩くことはしないし、怒りもしない。
それどころかメチャクチャ親切に教えてくれるし、教え方も上手い。凄く教え慣れてる感じ、きっと人に教えるのに慣れてるんだと思う。
それなのに、ああ、それなのに、出してる雰囲気・最・悪!!
教え慣れてるってことは、この人に勉強のことを聞く人がいるんだろうけど…わたしにはぜったいむりっー!!
この人、にこりともしやがらねぇ〜! 空気が重い〜!!
「ありがとうございました〜」
「ああ」
「…………」
ほらまた沈黙だー!
♪ ゆずれない さわらせない〜♪
沈黙の部屋に携帯の着信音が響く。
ぬわぁぁ!? 携帯着るの忘れてたー!!
どうする、どうする!?
♪ は〜い アタシらっきー☆らっきーアイドル♪
焦るわたし、鳴り続ける携帯、重くなる空気。
「じゃあ休憩にするか」
意外なことにシン『先生』の方から、休憩の提案をしてきた。
分からん、こんなに優しいのになんでこんなに無愛想なんだろ?
取りあえずわたしは携帯を手にした。
「もしもし?」
『おうっ! きらっち勉強やってるか〜?』
この場の雰囲気とは正反対の能天気な声。
「あんた、空気読みなさいよ!! あんたの電話のせいで場の空気がますます悪くなったでしょうが!!」
『そんなの知らねえし〜だいたいさ、そういう場って携帯切っとくのが基本じゃね?』
「うっ………」
思わぬ反撃にわたしは言葉を詰まらせる…まあそう言われたら、そうなんだけど………。
「でなんの用?」
わたしは誤魔化しのために話を切り上げて、話題を振る。さすがプロ! 回避の仕方は完ぺき☆
『お〜そうだった、きらっちこの声が聞こえるか?』
「ん〜………? 歓声?」
『おう! 前言ってたプールに今来てるんだぜ〜!』
「え〜と、それわたしに聞かせてどうするのかな〜?」
『ん〜別に〜ただ自慢したいだけ〜♪』
「死ね」
ぷつ
わたしは電話を切ると速攻で電源を落とす。
今度会ったらマジぬっコロス!!
ってしまったー! ついつい素を出してしまった!!
スーパーアイドルのこんな様子、どん引かれるの決定的、やばいよ! ネットにさらされるよー!
そしておそらくますます重くなる空気…だめっーこれ以上重くなったら死ぬ! 圧死するっー!!
恐る恐る振り返ってシン『先生』方を見ると………。
わたしはその光景に思わず二度見した、いやそれ以上したかもしれない、それほど予想外のものだったからだ。
笑ってた、あの無愛想なシン『先生』が………。