わたしは目の前に立っている男をじっ〜と見ていた。男の方も同じくわたしの方をじっ〜と見ている。

 ち、沈黙が痛い………

 この人がわたしの家庭教師らしい、思ってたより若いし結構美形〜でも無愛想って感じ。

 まあ桜庭キャプテンの知り合いらしいし、悪い人じゃないんだろうけど………

 普通こういう場合、親が仕切るはずなのに『後は若い人でごゆっくり』とか抜かしやがって速攻で逃げた。

 あのばばあ〜! 雇ったのはあんたでしょうが〜!!



「小神あきらです、よろしくぷり〜ず☆」

 仕方ないからわたしから先に挨拶を済ませる。

 こういう場合は年下からするのが業界の基本。そして相手は一般人、わたしを前に緊張もしてるだろうしね〜

「アスカ・シンだ、シンでいい。早速だけど、まずはキミの学力がどんなものか知りたいからこれをやってくれ」

 わたし相手ににこりともせず、プリントを配るシン…『先生』。

 うわぁ〜何この人? 見かけ通り無愛想。

 こんな人と勉強するんですか………

 まあ気に入らない人とやるのは別に慣れてるし〜こういう場合はドライな関係が一番なのよね〜

「どうした、手が止まってるぞ?」

「は〜い、すみません」

 それでも態度に出るわたしって可愛い





「ふ〜ん、こんなもんか」

 採点が終わってシン『先生』の一言目がそれだった。

 その顔は相も変わらず無表情………、この人、桜庭キャプテンが作ったロボットとかじゃないよね?



「まあ全体的に悪いよな」

 呟くように言ってるけど、わたしの耳にはちゃーんと聞こえてますよ!

 芸能人の耳の良さ、なめんな!!



「じゃあ今日はこの辺で」

「へっ?」

 テストを鞄に入れ終わるとシン『先生』は帰り支度を始める。

「あの〜今日はやらないんですか?」

「ああ。今日はあきらの学力を知っておきたかっただけだからな、やっぱ自分の目で確かめないと信用できないし」

 あ〜うざいタイプだ、絶対そうだ。

 って、今わたしのこと『あきら』って呼んだ!? 普通上の名か、ちゃんづけ、さんづけ、様づけでしょうが!!

 それにこれで終わったらあんた給料泥棒じゃないのよ!!



「じゃあオレ帰るんで、また明日」

 わたしの不満に気づいてないのか、無愛想に言って立ち去るシン『先生』。



 パタン



「……疲れた」

 シン『先生』がいなくなるのを確認して、わたしは机に突っ伏す。

 時間にして一時間弱、でこの疲労感、ぶっちゃけありえない。

 これからこんな調子かと思うと鬱でしかない。

「神様、助けてください。あきらはもうずいぶん反省しました………」

 わたしの声に神様はなんの反応も示してくれない。



 わたしの夏の試練が始まった。





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