『世界を越えて』
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目線を胸の下に下げると見える菫色の髪。1房ふれると甘い香りと、一瞬のやわらかな感触の後に手からこぼれる。
ベッドの上で相手を抱えたままで同じことを2、3度繰り返す。そしてその度に自分の頬が緩むのが分かる。
あまりの愛おしさにオレは抱きしめる力を少しだけ強める。
そうすると抱きしめた相手には沢山あるからなのか、暖かなものがオレの体を満たしてくる。
オレは後ろから抱きしめているのに、まるで逆に抱きしめられているような感覚。
きっと実生活でもそうなんだろう
オレはこの抱きしめているつかさにいつも見守られている
今日、6月15日はオレの家族が亡くなった日だ
数年前ならいざ知らず、今のオレはそのことでは震えなくなった。
もちろん完全に過去のものとしてできたわけじゃないし、オレ1人でここまでいけたなんて思っちゃいない。
でもこの日でも普通に過ごすことができるようになった。
それなのにつかさときたら、専門学校の休み時間の度にメールをしてきた。
オレの今日の気分に始まって、今何をしてるかとか次の授業で何を作るかとか、ただ最後らへんは朝の天気とかになってたけど。
その上、学校が終わったら家まで来てくれた。
そこまでしなくてもいいと苦笑したけど、本当はつかさと繋がっていたから今日は気持ちが落ちなかったのかもしれない。
「つかさ、ありがとな」
感謝の言葉を耳元で言ったのに、つかさは何の反応も示さない。
変わりに聞こえるのはつかさのかすかな息の音………。
って寝てるのかよ!
どうりでさっきから静かだと思った
「つかさー起きろー」
オレは座ったままの姿勢でつかさの肩を揺さぶった。