『願い』
1
「ほら、願い事言えよ」
デートの開始直前にわたしの前で腕を組みながら、そう言ったのはわたしの大好きな彼氏さんのシンちゃん。
「どうして?」
でもそれを言ってきた意味が分からなかったの。
だってシンちゃんはいつも優しくしてくれるし、わたしの頼み事も断ったことがないのに、わざわざそんな願い事なんてないよ?
「この前の誕生日つかさを泣かせたからな」
シンちゃんはバツが悪そうに言うけど、それは主にわたしの方が原因があってちゃんとその後に仲直りしたし。
「もういいよ、わたしはぜんぜ―――」
「よくない!」
シンちゃんの腕を組んだままの大声にわたしはびっくり。
でもすぐにシンちゃんが慌てた様子で頭をなでてくれたから大丈夫。
「これは責任なんだ、つかさを傷つけたことの」
シンちゃんの強い意志が宿った瞳。
ちょっとだけ見たらその瞳に、竦んじゃうかもしれない
でもわたしは知ってるよ。この瞳は本当にシンちゃんが大切に想ってくれてる時のものだってことが。
だからこんなにもわたしのことを大事に想ってくれてる、それはすっごく嬉しい。
でもシンちゃんにはもっと穏やかに過ごして欲しいな
そんなに力入れ過ぎなくて、わたしの横に一緒にいてくれたら
「聞いてるかつかさ?」
「えっ?」
「人が真剣に話してるのになんだよそれは!?」
「あう〜」
そしてシンちゃんはわたしの頭をさっきとは違ってわしゃわしゃと乱暴になでる。
出会った時のシンちゃんだったら、きっと話の腰を折られたって怒ってたよね
そうならなかったのは、きっとシンちゃんが変わったからだよね。
「シンちゃん、偉い!」
「ハッ? というかほら願い事」
「えっ? それまだ続いてるの?」
「当たり前だろ?」
「う〜ん」
こういう決めることはずっと苦手
わたしは全然変わってないのかも