『海と少女』
1
オレ達の座っているファミレスの席のテーブルには沢山のパンフレットやら本やらが置かれている。
それを見ているのは1組のカップル。
「さて、どこ行く?」
男の方、つまりオレはパンフレットを適当に見ながら、向かいの少女に声を掛ける。
「う〜ん」
オレとは反対に1つ、1つ、1ページ、1ページ、丁寧に見ているのはオレの彼女であるつかさだ。
オレ達は今デートを兼ねて、もうすぐ向える夏休みの計画を練っている。
付き合い始めての長期休み、やっぱり泊りがけで行くべきだろうと、2人の意見が見事に一致し、ここでこうしているのだが………。
「どこか行きたいとこあったか?」
オレはつかさが置いてあるもの全部に目を通すのを見届けてから、改めて尋ねる。
「う〜ん、山っていいよね、でもわたし体力ないし〜」
「じゃあ海はどうだ?」
「うん、海もいいよね! あっ、でもわたし泳げないんだった、困ったね」
「本当に困ってるか?」
全然困ってない様子のつかさにオレはジト目でツッコミを入れる。
なるべくつかさの意見を取り入れたいのだけど、つかさの性格上なかなか自分の意見を言ってくれない。
本当は俺としてもつかさの意見が出るまで待ちたいところだけど、せっかくのデートをこれだけで終わるのは少し寂しい。
しかも恐らくつかさと次に合うのはレポートや試験が終わった夏休み、つまり今計画している旅行なのだ。
しかしそれまでにまだ1ヶ月近くある、これで時間を多く使いたくない。
「シンちゃんが決めていいよ」
オレの顔からそれを察したのかつかさが決定権をオレに譲ってくる。
「でもな………」
とはいってもオレが独断で決めるわけには…でも一刻も早くつかさと遊びたいし………。
「いいよ。シンちゃんとだったらどこに行っても楽しいもん♪」
そう言って笑顔を見せるつかさ。
ヤバイ、可愛すぎる
この笑顔を出されたら断る術をオレは持たない。
「そ、そうだな………」
オレは照れてるのをつかさに気付かれないように、パンフレットに目を通す。
海か? 山か? はたまたそれ以外にするか………。
その時オレにある考えが浮かぶ。
「な、なあ、海にしょうぜ?
泳げなくても、景色とか釣りとか他の楽しみ方もあるだろうし………」
「うん、そうだね! じゃあ海にしよ!」
つかさはオレの提案に頷く。
ごめん、つかさ
そんなつかさにオレは心の中で頭を下げた。
本心は別にあったからだ。